16〜17世紀、徳川家の命令で駿府城や静岡浅間神社を建てるために、全国から多くの職人が集まった静岡県静岡市。このような背景から、静岡市は“ものづくりのまち”として発展し、今でもその技術が受け継がれています。伝統工芸品だけでなく、プラモデルなどの現代的なものづくりにもその職人技が生かされています。
そんな静岡市の丸子(まりこ)・宇津ノ谷(うつのや)エリアは、旧東海道の面影を今に残す歴史ある地域。静岡ならではのものづくり文化を体験しながら、当時の旅人が行き交った道の風情を感じることができます。伝統工芸にふれ、江戸時代の旅人に親しまれた名物グルメを味わいながら、静岡の歴史と文化を存分に楽しめる旅へとご案内します。
目次
丸子宿の歴史と味を今に伝える名店「丁子屋」
丸子エリアの歴史をより深く味わうなら、まず訪れてほしいのが、静岡市駿河区丸子にある「元祖 丁子屋(ちょうじや)」。戦国時代の慶長元(1596)年に創業し、400年以上たった今も名物の「とろろ汁」を提供し続けています。
丸子エリアが発展したきっかけは、江戸から数えて20番目の宿場町「丸子宿(まりこしゅく)」として、東海道五十三次に指定されたことがきっかけ。旧東海道を行き交う旅人たちは評判を聞いて「丁子屋」に立ち寄り、とろろ汁を味わいました。松尾芭蕉や十返舎一九など、多くの著名人もそのおいしさを作品の中で伝えています。
茅葺き屋根が印象的な丁子屋を中心に、当時の丸子宿の様子を描いた歌川広重の浮世絵「東海道五拾三次之内 丸子」からは、往時の情景をリアルに感じ取ることができます。
店主を務めるのは、14代目「丁子屋平吉」を襲名した柴山広行さん。とろろ汁は静岡県産の自然薯にこだわり、現在は18軒の農家から質の高い自然薯を仕入れています。
自然薯は栽培が難しい作物。柴山さんは生産者同士の橋渡し役として、静岡全体の自然薯業界を盛り上げるために日々尽力しているそうです。
とろろ汁は定食で味わうことができ、とろろ汁、麦めし、味噌汁、香物、薬味がセットになった「丸子」(1,760円※2025年12月5日より1,870円)や、「丸子」に揚げとろやおかべ揚げなどがセットになった「府中」(2,860円※2025年12月5日より3,025円)をはじめ、数種類から選べます。
食べ方は、麦飯にとろろ汁をかけ、薬味を少し添えて「ザーザー」と音を立てながら味わうのが正解。かつお出汁と白味噌で仕立てたとろろ汁はとろりとした口あたりで、400年以上愛され続けてきた理由がよくわかります。
とろろ汁のほかにもぜひ味わいたいのが、「揚げとろ」(1,100円※2025年12月5日より1,320円)と「おかべ揚げ」(550円)。「揚げとろ」は、すりおろした自然薯に海苔や椎茸をのせて揚げた一品で、外はカリッと、中はトロッとした食感が楽しめます。
一方の「おかべ揚げ」は、豆腐と山芋を使ったやさしい味わいの揚げ物。どちらも、とろろ汁とはまた違う形で自然薯の魅力を味わえます。
元祖 丁子屋
- 住所
- 静岡県静岡市駿河区丸子7-10-10
- 営業時間
- 月〜金/11:00〜14:00
土・日・祝日/11:00〜15:00、16:30〜19:00 - 定休日
- 毎週木曜日(毎月末の水・木のみ連休)
- アクセス
- 【電車・バス】JR「静岡」駅よりバスに乗車して「丸子橋入口」下車、徒歩約1分
【車】東名高速「静岡」ICより車で約15分 - 公式サイト
- 元祖 丁子屋
伝統工芸を体験できる「駿府の工房 匠宿」
丸子の歴史に「食」でふれた後は、「駿府の工房 匠宿(たくみしゅく)」で伝統体験を。「丁子屋」から徒歩約8分、車ですぐの場所にある日本最大級の伝統工芸体験施設です。
敷地内には、工房やギャラリー、カフェなどがそろっています。
工房は、駿河竹千筋細工(するがたけせんすじざいく)や駿河和染を体験できる「竹と染」、木工や駿河漆器を体験できる「木と漆」、陶芸が体験できる「火と土」、そしてタミヤ監修の模型工房「星と森」の4つ。それぞれの工房で、静岡ならではのものづくりを楽しむことができます。
どの体験にしようか迷ったら、まず注目したいのが、静岡ならではの「駿河竹千筋細工」。細い竹ひごや竹のパーツを組み合わせて、小物入れや花器などを作ることができます。
体験内容によって所要時間や料金が異なるため、事前にWebやLINE、電話から予約しておくと安心です。
静岡の伝統工芸品が一堂に集まった「匠宿伝統工芸館」(入場無料)も見逃せません。駿河羽子板が飾られたエントランスを抜けると、常設展と企画展で、静岡市伝統工芸技術秀士や現代の名工による作品を鑑賞できます。
取材時は、企画展「お茶染め Washizu.展 茶で染めゆく」が開催されていました。静岡の代表的な産業であるお茶を染料に使った作品が広々とした展示スペースに美しく並び、静岡ならではの文化を感じられる内容でした。
気になる工芸品は、「ギャラリー TetoTeto」で購入も可能。全国の民藝品や日用品がそろい、特に駿河竹千筋細工やお茶染めの商品が人気です。
友人や家族へのお土産を買うなら、「コトコトSTORE」がぴったり。お菓子、酒、お茶など静岡のおいしいものを厳選したセレクトショップです。
注目は、丸子の特産品であるはちみつと丸子紅茶。はちみつは、約100年の歴史を持つ「村本養蜂場」の天然はちみつが販売されており、「みかん」(880円)や「もち」(700円)など、丸子の樹木や花々の香りを生かした味わいが楽しめます。
おでん・駄菓子の「吾作商店」は、子どもも大人もみんなが楽しめるお店。店内にはたくさんの駄菓子が並び、世代を問わずワクワク気分になれます。
静岡の昔ながらの駄菓子屋さんといえば、真っ黒なだしが特徴の「静岡おでん」。お会計がしやすいよう、具材が串に刺さっているのも特徴です。「黒はんぺん」や「ガツ(豚もつ)」など珍しい具もあり、熱々を頬張れば思わず笑顔に!
「The COFFEE ROASTER」でゆっくり休憩するのも心地よい時間。店内の焙煎機でローストしたこだわりのコーヒーを、「匠宿」の職人が作ったマグカップで味わえます。
ここでしか味わえない注目のスイーツが、「ザ・ドーム」(2,400円/数量限定)。「匠宿」で活躍する職人たちの技が結集した特別な器で提供される、美しいケーキプレートです。
駿河竹千筋細工、陶器、漆塗(うるしぬり)、木工、お茶染めなど、静岡の伝統工芸が随所に取り入れられ、季節ごとに変わるケーキとともに、五感で楽しめる特別な時間を演出します。
駿府の工房 匠宿
- 住所
- 静岡県静岡市駿河区丸子3240-1
- 開館時間
- 10:00~19:00
- 休館日
- 月曜日(祝日の場合は営業、翌平日休館)
- アクセス
- 【電車・バス】JR「静岡」駅よりバスに乗車して「吐月峰駿府匠宿入口」下車、徒歩約5分
【車】東名高速「静岡」ICより車で約15分 - 公式サイト
- 匠宿 - TRADITIONAL HAND CRAFT ARTS CENTER
武将たちを癒やした「吐月峰柴屋寺」の庭園
「駿府の工房 匠宿」から徒歩約5分の「吐月峰柴屋寺(とげっぽうさいおくじ)」も、丸子エリアの人気観光スポット。
庭園は、背後にそびえる天柱山(てんちゅうざん)や首陽山(しゅようざん)を借景にした見事な造り。徳川家康が自ら植えたと伝わる槇(まき)を見ることができ、穏やかな雰囲気の中で、歴史と自然の調和を感じながら穏やかな時間を過ごせます。
南側は、丸子にそびえる小高い山「丸子富士」を借景にした美しい庭園。この庭園は、国の名勝・史跡にも指定されています。
「吐月峰柴屋寺」の初代住職は、今川義忠や今川氏親に仕えた連歌師の宗長(そうちょう)。今から500年以上前の室町時代に創建され、数々の武将がこの地に訪れて和歌を詠み、お茶を楽しんだと伝えられています。
そのため「吐月峰柴屋寺」には、足利義政からいただいた文福茶釜(ぶんぷくちゃがま)など、貴重な宝物が残されています。美しい庭園は、戦乱の時代にあっても武将たちの心を和ませる、安らぎの場であったのでしょう。
吐月峰柴屋寺
- 住所
- 静岡県静岡市駿河区丸子3316
- 時間
- 10:00~16:00 ※無休
- 拝観料
- 大人400円、小人200円
- アクセス
- 【電車・バス】JR「静岡」駅よりバスに乗車して「吐月峰駿府匠宿入口」下車、徒歩約10分
【車】東名高速「静岡」ICより車で約20分
明治のトンネルと古い家並みが残る宇津ノ谷
丸子エリアから車で10分ほどの宇津ノ谷エリアでは、歴史の面影を残すノスタルジックな風景に出会えます。その象徴が「明治宇津ノ谷隧道(めいじうつのやずいどう)」、通称「明治のトンネル」。1876年(明治9年)に開通した日本初の有料トンネルで、現在は歩行者専用として保存されています。
1997年には、現役のトンネルとして初めて国の登録有形文化財に指定されました。
苔むしたレンガ造りのトンネルは、まるで映画やアニメに登場しそう。「この先は、別の世界につながっているのでは…」と思わず想像してしまいます。トンネルの向こうに広がる景色を、ぜひ現地で確かめてみてくださいね。
明治宇津ノ谷隧道(明治のトンネル)
- 住所
- 静岡県静岡市駿河区宇津ノ谷
- アクセス
- 【電車・バス】JR「静岡」駅よりバスに乗車して「宇津ノ谷入口」下車、徒歩約15分
【車】東名高速「静岡」ICより車で約25分
宇津ノ谷は旧東海道の丸子宿と岡部宿の間に位置し、かつては難所として知られる宇津ノ谷峠の手前に、多くの旅人が行き交っていました。現在も「宇津ノ谷の家並み」として当時の面影を残しており、民家の軒先には「御羽織屋(おはおりや)」など、かつての商家の看板を見ることができます。
「人を食べる鬼が出た」という伝説が伝わる宇津ノ谷峠。
旅人の安全を願い、魔除けとしてお団子を数珠つなぎにして作る「十団子(とおだんご)」の風習は今もこの地に息づいており、民家の玄関先に十団子を飾る光景が見られます。
十団子は毎年8月23、24日に開催される「慶龍寺(けいりゅうじ)」の縁日で参詣者に販売されます。「慶龍寺」は、旅の途中で鬼に出会わないよう願いを込め、人々がお参りした延命地蔵尊をまつるお寺です。
慶龍寺
- 住所
- 静岡県静岡市駿河区宇津ノ谷729-1
- 時間
- 見学自由
- アクセス
- 【電車・バス】JR「静岡」駅よりバスに乗車して「宇津ノ谷入口」下車、徒歩約10分
【車】東名高速「静岡」ICより車で約20分
帰る前に立ち寄りたい、静岡駅の観光&名産スポット
東京方面から丸子・宇津ノ谷エリアへ行く際は、静岡駅を起点にレンタカーやバスで巡るのが便利です。また、帰りに新幹線の時間まで余裕があるときは、静岡駅周辺を観光してみるのもおすすめ。
“ものづくりのまち”静岡らしさを感じられるのが、組み立て前の巨大なプラモデルをイメージして作られた「プラモニュメント」です。市内には現在16基が設置されており、静岡駅周辺でもプラモデル風の公衆電話や新幹線の座席など、遊び心あふれるデザインを楽しめます。
静岡駅では、「カラーマンホール探し」も楽しみたいことのひとつ。
静岡市清水区出身の漫画家・さくらももこさんの作品『ちびまる子ちゃん』や、今川義元をモチーフにしたご当地キャラクター「今川さん」などがデザインされた、静岡市下水道のカラーマンホール蓋を見ることができます。静岡駅から静岡市役所周辺のエリアだけでも、全部で9枚設置されています。
新幹線に乗る前にお土産を探すなら、静岡駅のASTY静岡西館にある「駿府楽市」へ。お茶の産地・静岡ならではの銘茶をはじめ、三和酒造の日本酒「臥龍梅(がりゅうばい)」、駿河漆器などの伝統工芸品まで、静岡市の名産品がそろっています。
ユニークなお土産として人気なのが、“缶詰王国”静岡ならではの缶詰。静岡県には10社以上の缶詰メーカーがあり、ツナ缶の全国シェアはなんと97%を誇ります。「清水もつカレー」や「静岡おでん」など、ご当地グルメを缶詰で気軽に持ち帰ることができます。
伝統工芸にふれながら、まるでタイムスリップしたように歴史を感じる旅が楽しめる、静岡市の丸子・宇津ノ谷エリア。東京駅から静岡駅までは新幹線で約1時間とアクセスも良く、週末の1泊2日旅行にも気軽に訪れられる距離です。
懐かしさと新しさが交わる丸子・宇津ノ谷へ、ぜひ足を運んでみてください。
取材・撮影・文/小浜みゆ
