文化財建築と源泉かけ流しの名宿へ。信州・渋温泉「歴史の宿 金具屋」で味わう湯巡りと職人の遊び心

歴史の宿 金具屋

1300年以上の歴史を持つと伝えられる長野県・渋温泉。石畳の道沿いには伝統的な木造建築が立ち並び、立ちのぼる湯気が温泉街に幻想的な雰囲気を添えています。

その象徴的な存在が「渋温泉 歴史の宿 金具屋」。国の登録有形文化財に認定された建物に加え、泉質の異なる湯を源泉かけ流しで楽しめるのが魅力です。宿泊者限定の館内・源泉見学を通して、ほかにはない世界観にどっぷりと浸かれます。

 

 

アクセス・チェックイン

信州の隠れ湯、渋温泉へ

歴史の宿 金具屋
歴史の宿 金具屋

山々が連なる長野県の中でも、渋温泉が位置するのは周囲を山に囲まれたエリア。奈良時代に開湯したと伝えられており、かの武将・武田信玄の隠し湯だったという伝承も残っています。野生のサルが温泉に入る様子で有名な、地獄谷野猿公苑もすぐ近くです。

 

歴史の宿 金具屋

最寄り駅は長野電鉄の終点・湯田中駅で、北陸新幹線が停車する長野駅からは特急で約45分。15時以降であれば、湯田中駅に「金具屋」の送迎車が迎えにきてくれます(要予約)。車で向かう場合は、上信越自動車道を信州中野ICで降り、20分ほどで宿専用の駐車場に到着します。

 

歴史の宿 金具屋

旅館が建ち並ぶ渋温泉の町並みを進むと、「歴史の宿 金具屋」にたどり着きます。そこに姿を現すのが、木造四階建ての「斉月楼(さいげつろう)」です。堂々とそびえ立つその姿は、訪れる人を思わず圧倒します。

1936(昭和11)年に完成した「斉月楼」は、その歴史と建築美が高く評価され、2003年に国の登録有形文化財となりました。

 

歴史の宿 金具屋
歴史の宿 金具屋

重厚な扉をくぐって館内に入ると、まず目に飛び込んでくるのが、太い梁が天井を渡る帳場(フロント)です。家紋入りののれんや大きな牛の木彫り、使い込まれた帳場机が並び、長い歴史を感じさせます。さらに看板猫のお出迎えもあり、気づけば映画のワンシーンのような世界へと引き込まれます。

 

歴史の宿 金具屋

奥にはソファが置かれたくつろぎスペースもあり、旅館にゆかりのある書籍も読むことができます。

 

歴史の宿 金具屋

チェックインの際に館内ツアー「文化財巡り」も予約し、お部屋へ移動。案内をされながら向かいますが、5つの建物がつながっている館内はまるで迷路のよう。歩いているだけでワクワクします。

 

客室

職人の遊び心が詰まった客室

歴史の宿 金具屋

「金具屋」には全28室の客室があり、一部屋ごとに趣の異なる造りが魅力です。今回宿泊した「高砂の宿」は、昭和初期に宮大工が腕をふるい、厳選した木材で造り上げた「金具屋」を代表する木造客室のひとつ。

 

歴史の宿 金具屋

「斉月楼」にあるこの客室は、床の間や欄間(らんま)を備えた数奇屋造りの伝統美を基調としつつ、山並みや打ち出の小づちをモチーフにした装飾に、さりげない遊び心が感じられます。

 

歴史の宿 金具屋

二間続きの和室と広縁を含めて広さは16畳ほどで、大人5名まで宿泊可能。ゆったりとした広縁からはのどかな温泉街を見渡すことができ、通りを行く人が足を止めて「斉月楼」を見上げる姿も目に入ります。

 

歴史の宿 金具屋

六代目当主が地元の宮大工と全国を巡り、その知見をもとに完成させた「斉月楼」。随所にこだわりが感じられ、今も客室として泊まれることの貴重さを改めて感じます。

 

歴史の宿 金具屋

厳選木材を使った客室のほかにも、大人数での宿泊にぴったりの「ゆったり和室」や、シンプルな中に伝統的な意匠が息づく「一般和室」があり、目的や人数に合わせて部屋を選ぶことができます。

 

歴史の宿 金具屋

予約時に客室タイプを選ぶことはできますが、一部屋ごとに意匠が異なるため、実際にどんな空間に出合えるかは訪れてからのお楽しみ。個性豊かなお部屋の造りに魅せられ、全室制覇を目指して何度も足を運ぶリピーターもいるのだとか。

 

大浴場

歴史の宿 金具屋

建築美で知られる「金具屋」ですが、敷地内に4つの源泉を持つ、源泉かけ流しの温泉も大きな魅力です。ひと休みした後は浴衣に着替え、湯巡りへ。

館内には、露天風呂1カ所と内湯2カ所、さらに5つの貸切風呂があり、合計8つのお風呂を楽しむことができます。それぞれ趣が異なり、滞在中は何度でも湯浴みを満喫できます。

 

ステンドグラスが輝く「浪漫風呂」

歴史の宿 金具屋

まずは、開放感あふれる「浪漫(ろまん)風呂」へ。昭和初期の洋風デザインを取り入れた浴室は、ステンドグラス越しのやわらかな光に包まれ、非日常的な雰囲気。噴水のように湯が注がれる円形の浴槽も珍しいのだそう。

 

歴史の宿 金具屋

地元に伝わる民話「大沼池の黒龍」に登場する黒姫と黒龍がステンドグラスで表現され、和の物語と洋風建築が見事に調和した、印象的な空間となっています。

 

自然に抱かれる露天風呂

歴史の宿 金具屋

身体が温まったら、屋上にある「龍瑞露天風呂」へ。開放的な湯船からは、横手山や志賀高原一帯の雄大な山並みを望むことができます。

浴槽には、浅間山の噴火で生じた火山岩を利用。木材には木曽檜(ひのき)や椹(さわら)を取り入れるなど、素材選びに長野県産へのこだわりが感じられます。

 

文化財巡り

圧巻の130畳!「大広間」

歴史の宿 金具屋

毎日17時30分から始まる宿泊者限定の「文化財巡り」では、館内を巡りながら「金具屋」の歴史や文化財について詳しく知ることができます。「斉月楼」と同様、登録有形文化財の「大広間」から見学が始まります。

 

歴史の宿 金具屋

案内してくれるのは、九代目当主の西山和樹さん。当時の写真を交えながら、話は鉄道の開通で観光が活気づいた昭和初期へとさかのぼります。鉄道をきっかけに旅行者が増え、およそ300人を収容できる宴会場として造られたのが「大広間」です。

 

歴史の宿 金具屋

約130畳という広さの「大広間」は、見た目以上に開放感があります。その理由は、空間を遮る柱が一本もない造りにあります。これは、世界遺産・富岡製糸場にも用いられた「トラス構造」と呼ばれる西洋の建築技術を取り入れているためです。

こうした和の意匠に西洋技術を融合させた建築は「擬洋風建築」と呼ばれ、昭和初期を中心に全国へと広がりました。時代の流れとともに多くの建物が失われる中、「大広間」は災害などを乗り越えながらも良好な状態で残されてきた点が高く評価され、文化財に認定されています。

 

小さな村に見立てた「斉月楼」

歴史の宿 金具屋

続いての文化財「斉月楼」は、先人たちによる最高のおもてなしが宿る空間。6メートルもの巨大な一枚板が続く廊下の先には、庇(ひさし)や屋根を設けた客室が並びます。

本来は室内に必要のない装飾が施されているのは、客室一つひとつを一軒の家として考えているから。それぞれを独立した住まいに見立てることですべて異なる意匠を持つ客室が生まれ、ぜいたくな空間が造られました。

 

歴史の宿 金具屋

客室が家なら、廊下はもう外の世界。階段の踊り場の窓には、月明かりに照らされた富士山をしつらえるなど細部まで抜かりがなく、訪れる宿泊客を存分に楽しませたいという先人の想いが息づいています。

 

歴史の宿 金具屋

徹底された世界観は、「斉月楼」の1階にも広がっています。

廊下に敷かれた砂利は街道を、青い漆喰で仕上げた天井は空を表現。かつては名産品や土産物を収めた展示棚が設けられ、屋内でありながら商店街のような賑わいが演出されていました。宿泊客は買い物を楽しみつつ、宿場町を歩くような風情を味わっていたといいます。

 

歴史の宿 金具屋

約40分間の「文化財巡り」は、発見の連続。一見すると不思議な装飾も、実は水車や番傘、鳥居に使われていた木材を再利用したものと知り、良いものを大切に残そうとする職人たちの心意気が随所に感じられます。

 

歴史の宿 金具屋

「建物や装飾を手がけたのは地元の宮大工たちでした。普段は寺社仏閣に携わる彼らにとって、旅館という場は決まりごとが少なく、新しいことや自由な発想にも挑戦できたそうです。だからこそ、楽しみながら建物を作り上げ、遊び心のある空間が生まれたのかもしれません」(九代目・西山和樹さん)。

お客様をもてなしたいという代々の当主の想いは、現在も館内の文化財を丁寧に案内する姿に、確かに息づいています。

 

夕食

五感で楽しむ信州の食文化

歴史の宿 金具屋

温泉と建築を存分に堪能し、夕食への期待も高まります。食事の会場は、文化財巡りで訪れた「大広間」。当時と変わらぬ雰囲気の中で食事を味わえること自体が、すでにご馳走のように感じます。

 

歴史の宿 金具屋

こちらでは、長寿県として知られる長野県の食材をふんだんに使った料理を味わえます。取材時にいただいたのは「信州牛しゃぶプラン」。数多くの料理が並ぶ宴会会席は見た目にも華やかで、満足感のある内容でした。

 

歴史の宿 金具屋

長野県特産のりんごを飼料に取り入れて育てられる信州牛は、厳しい基準を満たした黒毛和牛のブランド牛です。肉質や脂の質、霜降りのバランスが良く、口に運ぶとやわらかな旨みが広がります。

 

歴史の宿 金具屋

長野県が誇る名産は、信州牛だけではありません。先付には名産のわさび漬けが提供され、ほどよい辛味が食欲を引き立てます。

ほかにも、鯉の甘煮やみすず豆富の炊き合わせ、昆布締めにした信州サーモンなど郷土色豊かな料理が続き、食事を終える頃には長野の食文化について詳しくなれそうです。

 

歴史の宿 金具屋
歴史の宿 金具屋

サンゴのような形が特徴的な山伏茸(ヤマブシタケ)が入った土瓶蒸しは、山の恵みが凝縮した逸品。一口だけでも多彩な味を楽しめるので、おちょこでゆっくりと味わいたくなります。

 

歴史の宿 金具屋

地元のきのことお豆腐を使った「きのこの揚げ出し椀」は、「金具屋」のオリジナル料理。上品な風味の白舞茸(シロマイタケ)を揚げた一品は、そのまま食べても素材の旨みが感じられますが、あんをまとわせることでいっそうおいしさが増します。

 

歴史の宿 金具屋

締めくくりは長野を代表するお蕎麦。喉ごしが良いとろろと合わせることで、満腹でもするすると入っていきます。

 

貸切風呂

意匠が異なる貸切風呂

歴史の宿 金具屋

長野のおいしいものでたっぷり満たされたら、ゆったりと過ごせる貸切風呂へ。客室同様、5カ所の貸切風呂もそれぞれ異なる意匠。

山肌をくりぬいた「岩窟(がんくつ)の湯」は、四方を天然の岩石に囲まれ、自然との一体感が味わえます。

 

歴史の宿 金具屋

舟形の浴槽とタイルアートが印象的な「斎月の湯」は、館内で最も広い貸切風呂。壁面のタイルアートは一枚ずつ手作業で仕上げられ、完成までに約3カ月を要した力作です。縁起の良い富士山と松のモチーフに囲まれ、ご利益まで授かりそう。

 

歴史の宿 金具屋

そのほか、「恵和の湯」「美妙の湯」「子安の湯」といった1~2名向けの貸切風呂もあります。すべての貸切風呂は24時間無料で利用でき、事前予約も不要。空いていれば、気軽に好きなタイミングで温泉を楽しめます。

 

外湯・ライトアップ

外湯巡りが楽しい、レトロな温泉街

歴史の宿 金具屋
歴史の宿 金具屋

街灯が灯り始めたら、夜の渋温泉散策へ。浴衣姿の宿泊客が行き交う光景は、温泉街ならではの風情を感じさせます。

 

歴史の宿 金具屋

渋温泉には九つの外湯(共同浴場)があり、宿泊者は無料で利用可能。泉質や雰囲気もそれぞれ異なり、町全体で湯巡りを楽しめます。

 

歴史の宿 金具屋

外に出たら、「斉月楼」のライトアップもお忘れなく。19時から22時までの限られた時間に楽しめる光景で、多くの旅行者が足を止める人気スポットです。黄金色に照らされた姿は荘厳で、思わず見入ってしまう美しさ。余韻に浸りながら心地よく眠りにつきました。

 

朝風呂・朝食

朝のひとときを「鎌倉風呂」で

歴史の宿 金具屋

翌朝、前日とは異なる大浴場「鎌倉風呂」に向かい、冷えた身体を温めます。

源頼朝が善光寺参拝の途中に渋温泉へ立ち寄ったという逸話にちなみ、鎌倉時代をイメージした浴場は華やかな装飾をあえて控えた造り。素朴で落ち着いた空間が、朝の静かな時間によくなじみます。

 

歴史の宿 金具屋

実は「鎌倉風呂」は、武田信玄ゆかりの湯とも伝えられています。湯が静かに流れる音に耳を澄ませながら過ごすひとときは、忙しい日常を忘れさせてくれる特別な時間です。

 

20年以上愛される名物「麦とろ御膳」

歴史の宿 金具屋

朝食は、20年以上変わらず愛され続けている「麦とろ御膳」をいただきます。

 

歴史の宿 金具屋

もちもちとした食感の栄養豊富な麦飯は、とろろとの相性も抜群。だしで下味がついているためそのままでもおいしいのですが、お漬物や卵黄を加えて自分好みの味わいにアレンジする楽しみも。

 

歴史の宿 金具屋

長野の希少なブランド豚「みゆきポーク」を使った一品は、酒粕と味噌と一緒に漬けることでよりやわらかな食感に。味噌の香ばしさがご飯によく合います。

 

歴史の宿 金具屋

口あたりのよい湯豆腐は滋味深く、やさしい味わいが体にしみ渡ります。健康的な朝食で、気持ちよく1日を始められそうです。

 

源泉見学ツアー

地球のエネルギーを体感

歴史の宿 金具屋

朝食後は、八代目・西山平四郎さんが案内する「源泉見学ツアー」に参加。敷地内にある全4カ所の自家源泉を巡りながら、温泉についての知識も深めることができます。

 

歴史の宿 金具屋

最初に向かったのは、「浪漫風呂」専用の源泉。浴場のすぐそばから湧き出るこの源泉は、江戸時代に起きた土砂災害からの復興のさなかに発見されたと伝えられています。この湯をきっかけに1758年、鍛冶屋を生業としていた金具屋が温泉宿へと転じたという、まさに「歴史の宿 金具屋」の原点ともいえる源泉です。 

 

歴史の宿 金具屋
歴史の宿 金具屋

続く「金具屋第三ボーリング」は、飲泉が認められている源泉。温泉成分そのものを少量味わう、貴重な体験ができます。口に含むと硫酸塩泉ならではの苦みと塩味が広がり、強い印象を残します。この独特の味わいが、「渋温泉」という名の由来になったとも伝えられているそうです。

 

歴史の宿 金具屋

ツアーの締めくくりは、川を挟んだ対岸にある「金具屋第一・第二ボーリング」。湧出温度が約98度と非常に高く、湯量も豊富なため、温泉としてだけでなく冬場は客室や宴会場の暖房にも利用されています。

一方で成分が濃いため配管が詰まりやすく、2週間に一度の点検と清掃が欠かせないという、管理の苦労も教えてもらいました。

 

歴史の宿 金具屋

バルブをゆるめた途端、空に向かって勢いよくお湯が吹き上げる光景は迫力満点。大地が生み出すエネルギーを間近に感じ、温泉はまさに地球からのギフトなのだと実感しました。

「すべてのお風呂が源泉かけ流しで、泉質の異なる湯を楽しめる宿は全国でも珍しいと思います。貸切風呂も充実しているので、ご家族や大切な方と一緒に、純度100パーセントの温泉を楽しんでいただきたいですね」(八代目・西山平四郎さん)。

 

歴史の宿 金具屋

時代を超えて、大切に受け継がれてきた「渋温泉 歴史の宿 金具屋」。こんこんと湧き続ける源泉は、今も変わらず旅人を癒やしています。温泉をはじめ、建物や客室、食事に至るまで、随所にあたたかなおもてなしが感じられる滞在でした。長い時間をかけて守り続けられてきた温泉宿は、身体だけでなく心もそっと温めてくれるようです。

 

渋温泉 歴史の宿 金具屋

住所
長野県下高井郡山ノ内町平穏2202
アクセス
長野電鉄「湯田中」駅よりタクシーで約7分、または送迎車を利用(要予約)
上信越自動車道「信州中野」ICより車で約20分
チェックイン
15:00
チェックアウト
10:00
客室数
28室
駐車場
あり/30台(無料)

 

取材・撮影・文/浅井みら野

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