旅にはいろいろな形があります。リラックスをするための旅、自分を取り戻すための旅、新たな発見をする旅…。「佐渡島の金山」の世界遺産登録で沸く新潟県佐渡市相川地区にたたずむ「NIPPONIA 佐渡相川 金山町」は、2024年7月の開業からそこに暮らす町人(まちびと)になって過ごす旅を提供しています。
約400年前の金山発見によって金鉱夫でにぎわった相川金山町の歴史や文化を学びながら、そこに住む温かい人たちとふれ合う、2泊3日の旅をご紹介します。
佐渡島の玄関口・両津港へは新潟港から約1時間の船旅
上越新幹線を利用して「新潟」駅で下車。そこからバスやタクシーを使い、新潟港へ。佐渡島の玄関口・両津港へは、ジェットフォイル(高速船)で約65分、カーフェリーに乗船して約2時間半の船旅です。そこからはレンタカーやバスなどを利用して、約1時間で目的地「NIPPONIA 佐渡相川 金山町」に到着します。
古き良き日本の情景が残る町に誕生した古民家ホテル
「きらりうむ佐渡」でチェックイン。金山の歴史や相川の町を知る
チェックインはホテルではなく、佐渡金銀山ガイダンス施設「きらりうむ佐渡」の観光案内所に向かいます。ここが宿のフロントであり、町のことを教えてくれるコンシェルジュの役割も果たしてくれる場所。ホテルに入る前に、金山の歴史や相川の成り立ちを知ることで、町への愛着が深まります。
宿泊費には「きらりうむ佐渡」の入場券が含まれているので、町歩きの前に展示資料や映像を見て、佐渡の金銀山の理解を深められます。「佐渡島の金山」は2024年7月27日に世界文化遺産に登録されたばかり。地元の方々がこの金山を世界遺産にするべく、28年の歳月をかけた努力がやっと実ったといいます。その登録に一役買ったのがこの「きらりうむ佐渡」です。
リクエストをすればガイドさんが町の歴史を解説しながら客室へと案内してくれます。ホテルまで3分ほどで行けるところを、あえて1時間かけて町散歩を楽しむのも「NIPPONIA」ならではの旅の形。町全体が部屋へと続くホテルの廊下のようなイメージです。
この日、案内してくださったのはガイドの祝(ほうり)雅子さん。佐渡の伝統的な陶器・無名異焼(むみょういやき)でできた柱の前で、金山町に残る遺構について詳しく教えていただきました。
所々に金の精錬作業に使われていた鉱石を磨くための石磨(いしうす)が埋め込まれた石垣。何気なく歩いていては見過ごしてしまう景色に、鉱山とともに歩んできた相川の歴史を感じます。
江戸時代のメインストリートであった京町通りや町の史跡を案内していただいた後に、本日宿泊する「NIPPONIA」の客室棟の一つである清水家へと向かいました。昔の姿そのままの鉱山住宅が階段状に立ち並ぶ京町通り界隈は、日本海に沈む夕日に照らされて光の道のように美しく見えるスポット。ノスタルジックな風景が広がります。
相川の町人が関わってつくる“まちごと”ホテル
全国に展開する「NIPPONIA」は、古民家や古い建物をリノベーションして、その土地に根付く文化や歴史を残す宿泊施設です。「NIPPONIA 佐渡相川 金山町」は、金山で栄えた町の面影を感じる古民家4棟を7つの客室にした、相川の歴史と文化を体感できる分散型のホテルです。
運営するのは地元の住民や飲食店業者を中心に組成した株式会社相川車座。代表の雨宮隆三さんと、女将の雨宮秋美さんにお話を伺うと、このホテルでの楽しみ方が見えてきます。
「ここ『NIPPONIA 佐渡相川 金山町』がある相川地区は、金山の最盛期だった江戸時代には、全国各地から5万とも10万ともいわれる人が集まって栄えた鉱山町。佐渡金山の歴史的遺構はもちろん、伝統芸能や相川の『人』の魅力を、多くの方々に知ってもらいたいという想いで、ホテルの機能を相川の町の中に分散させて、地域の方々と手を取り合って旅行者をもてなすホテルをつくりました。
実は私たちも4年前に移住してきて、相川の人と土地の魅力のとりこになった一人です。せっかく旅行に来ても、はじめての土地では外から来たお客様で終わってしまいます。そこで私たちが地元の方とお客様をつなぐ役割を担うことで、ゲストの方に地元の日常に触れてもらい、1泊や2泊でもふるさとに帰ってきたような気持ちで相川の『町人』として、ここでしか味わえない旅を楽しんでほしいと思っています」。
雨宮さんがそう話すように、このホテルには地元民とふれ合う旅のプログラムがたくさん用意されています。それを体験すれば、誰もが相川の魅力に夢中にならずにいられません。
無名異焼の窯元だった古民家で相川の暮らしを肌で感じる
今回宿泊した「清水家」は、無名異焼の窯元だった建物です。4つの客室を備え、フロント奥にあるくつろぎスペースの土間や階段は当時の面影を残した造り。床面も焼いていたレンガをそのまま活用しています。
家具もできる限り相川に元からあったものを置きたいという想いから、地元の方々から譲り受けたり、集めてきたりしたそうです。相川の古き良き時代を思い起こすことができる、何とも懐かしく、居心地の良いスペースです。
1階の奥には重厚な石の扉が出迎えてくれる部屋「眺蔵(ながめぐら)」があります。大事な蔵を建物で覆うという、海風が強い佐渡相川の特徴的な「内蔵造り」を生かした客室です。
内蔵を抜けて階段を上がると、また小さな石の扉が! 秘密の隠れ家を訪れたようでワクワクします。ただし、入り口が低いので頭をぶつけないように要注意。
入り口は狭いですが、部屋は90平米もあって広々としています。こちらは6名まで宿泊可能。
1階にあるもう一部屋は、無名異焼の窯元だった時代に工房として使われていた場所を生かしたその名も「窯(かま)」。電気釜を生かしたカウンターテーブルでお酒やコーヒーを飲みながら、当時の生活を想像するのも楽しい時間です。53平米、4名宿泊可能。
2階の部屋の一つが、通りに面した格子窓からやわらかい日差しが通り廊下をやさしく照らす、客間・床の間の純日本風客室「格子街道(こうしかいどう)」。44平米、4名宿泊可能。
今回、宿泊した部屋が相川の古民家に特徴的な船底天井の客室「舟(ふね)」。木のぬくもりを感じられる天井を見上げながら、ふかふかの布団で眠れば、一日の旅の疲れが解けていきます。
町中に点在する一棟貸しの客室で暮らすように過ごす
清水家のほかに、相川地区の中に当時の鉱山住宅をリノベーションした一棟貸しの客室が3棟あり、その数は今後も増える予定だそう。歴史的な町に建つ古民家に宿泊すれば、まるでここに住んでいるかのような気持ちで、町の魅力を満喫することができます。
高台のバルコニーから眺める夕日や夜空は格別「山師 新五郎」
佐渡金山の鉱脈を見つけ、開発した人物の名を冠した一棟貸しの客室「山師 新五郎(やまし しんごろう)」。町と海とのコントラストが織りなす景色を眺めることができる、相川地区の山の手にあります。
ウッドデッキからは、天気が良ければ日本海に沈む夕日や満天の星空を眺めることができます。
和室には寝心地にこだわったセミダブルサイズのベッドが2台。どの客室棟も建物はできるだけ昔の趣をそのままに残しながら、ベッドやバスルーム、キッチンはゲストが心地よく過ごせるよう最新の設備を取り入れてリノベーションされています。
露天風呂で虫の声を聞きながらゆったりした時を過ごす「左門町」
相川地区の町の景観を残すために、文化庁の認定物件として残されている「左門町住宅」も客室棟の一つです。
ふすまやガラス窓、タンスやちゃぶ台など、古民家のたたずまいは当時のまま。燦々と光が入る居間はとても心地が良く、ゆったりと過ごせます。
木々に囲まれたウッドデッキには露天風呂も。虫の鳴き声や風の音を聞きながら、お湯につかってゆったりリラックス。
船底天井の宿「時鐘楼」
町に時を知らせる時鐘楼。その前に建つ「時鐘楼(じしょうろう)」も相川の古民家に特徴的な船底天井を持つ室内です。窓からは江戸時代の面影を残す町並みや夕日が沈む海を望むことができます。
女将に相談をすれば、時鐘楼の鐘を鳴らす体験もできるそう。
ウェルカムドリンクの提供は町の「OKESA BAR BUNZO」で
町を歩き回ってのどが渇いたら、宿泊者に配布されるウェルカムドリンクチケットを持って、商店街の中央にある「OKESA BAR BUNZO(ブンゾー)」を訪れてみましょう。
チケットには「ワンドリンク or 佐渡おけさの笛のサービス」と書いてあります。不思議に思いながらチケットをマスターの岩﨑元吉士さんに手渡すと、得意の横笛で「佐渡おけさ」を吹いてくださるとのこと。笛の音が鳴り響くともうそこはお祭り会場のようで気分が盛り上がります。水曜日19時からは「佐渡おけさ」の練習会に参加することもできるそうです。
OKESA BAR BUNZO
- 住所
- 新潟県佐渡市相川一町目32
- 営業時間
- 18:00~25:00
- 定休日
- 木曜日
またチケットは、清水家の向かいにある「北村酒店」でも引き換えることができます。本州にはなかなか出回らない佐渡の地酒やクラフトビール、ソフトドリンクにも交換が可能です。
相川名物のはしご酒で地元の人と楽しい時間を過ごす
「郷土料理が食べたい」と女将に相談をして紹介いただいたお店が「炙り屋ちゃらくらげえ」。佐渡名物のイカ、佐渡真鯛、めばるの一夜干しなど、地元ならではの海鮮料理が盛りだくさん!
炭火焼にこだわる大将と会話を楽しみながら一杯。店名の「ちゃらくらげえ」とは「いいかげんなやつ」という意味だそう。炙りにこだわる大将の姿勢も料理の味も、店名とは違って本格的! はじめて訪れた旅行者を温かく迎えてくれます。
炙り屋ちゃらくらげえ
- 住所
- 新潟県佐渡市相川一町目13-1
- 営業時間
- 18:00~23:00
- 定休日
- 水曜日
3軒目は代表の雨宮さんと女将の案内で地元の人に愛される「ナイトスポットJ1」へ。雨宮さん曰く「相川の人はシャイですが、飲むととても面白いんです。この町へ来た旅行者に、はしご酒を楽しみながら地元の人と交流をして、それを体感してほしい」。
昭和レトロなスナックで乾杯! この後はカラオケで夜遅くまで大盛り上がり。店名の「J1」には深い意味があるようなので、ぜひマスターに尋ねてみてください。マスターやママさんとおしゃべりを楽しむのもこの旅の醍醐味です。
ナイトスポットJ1
- 住所
- 新潟県佐渡市 相川下戸町18
- 営業時間
- 19:00~翌2:00
- 定休日
- 月曜日(変更あり)
最後は「居酒屋スナック おるふぇ」へ。新鮮な魚を定食にしてもくれるので、夕食のスポットとしてもおすすめです。カウンター席に座って、お酒と地元の食ですっかり深まった相川の夜を満喫。
新鮮な地魚の刺身はもちろん、豆腐や焼き鳥など、宿の女将が「ぜひ食べてくださいね」と教えてくれたメニューは、どれもおいしくて外れがありません。
居酒屋スナック おるふぇ
- 住所
- 新潟県佐渡市相川二町目27
- 営業時間
- 17:30~22:00
- 定休日
- 不定休
おいしいお米を味わう滋味深い朝食弁当
翌日の朝食は、散歩がてら清水家から京町通りにある海を望む「京町茶屋」へ。入り口では看板犬のルーちゃんが出迎えてくれました。
島内でしか買えない達者米(たっしゃまい)のおにぎりがお弁当のメイン。お米そのものの味を確かめて欲しいという想いから、あえて塩むすびにしたおにぎりは、かめばかむほどに甘みが広がります。食べきれなかったおにぎりを下に敷いてある笹とラップにくるんで持ち帰ったのですが、冷めてもおいしさが変わらないのには驚きました。お供のおかずの野菜や海藻、味噌も相川産にこだわっています。
朝食は「京町茶屋」のほかに、部屋で食べることもできます。
金山で栄えた当時に想いをはせながら町をゆったり散歩
2日目はガイドの祝さんから教えてもらった相川の史跡を徒歩で巡ってみます。こちらは京町通りにある「旧相川拘置支所」。現存する木造拘置所としては全国的にも珍しく、映画やドラマのロケ地にも使われたそうです。
旧相川拘置支所
- 住所
- 新潟佐渡市相川新五郎町24
- 入館料
- 無料
江戸幕府が金銀山と佐渡を治めるために設置した奉公所を再現した「佐渡奉公所跡」。迫力のある門構えが目印です。
佐渡奉公所跡
- 住所
- 新潟県佐渡市相川広間町1-1
- 入館料
- 大人500円、小中学生200円
- 開館時間
- 8:30~17:00(入館16:30)
- 休館日
- 年末年始(12/29~1/3)
金の増産を目的に昭和13(1938)年に建造された鉱山施設「北沢浮遊選鉱場跡」。現在残っているのは基盤だけですが、苔むしたその姿はまるでジブリ作品に描かれる太古の史跡のようで見応えがあります。
夜には2025年1月5日までの期間限定で、何色にも変わるライトアップの演出がされています。暗闇に光その姿を見れば、そこは異次元の世界!
北沢浮遊選鉱場跡
- 住所
- 新潟県佐渡市相川北沢町3-2
- 入場料
- 無料
- ライトアップ
- ~2025年1月5日(日)17:00~22:00
京町通りの鉱山住宅を改装した佐渡唯一の映画館「ガシマシネマ」。地元出身の作家・高田由紀子さんの小説『君だけのシネマ』のモデルとして描かれ、ここで映画を見るためだけに相川を訪れる人もいる人気スポットです。
和室を利用したレトロな雰囲気の劇場に座ると、映画を見ながら別世界にタイムスリップした感覚になります。併設のカフェで映画に関する本を読みながら、コーヒーやカレーなどの軽食を楽しむことも。
ガシマシネマ
- 住所
- 新潟県佐渡市相川上京町11
- 営業時間
- 通常9:30~(開映時間は公式サイトで確認)
- 休館日
- 月・火曜日
- 公式サイト
- ガシマシネマ
歩き疲れたら、古民家カフェ「京町亭」でひと休み。窓やテラスからキラキラ輝く海を一望できる絶好のロケーションです。
写真映え間違いなしの「トキのフルーツパフェ」(800円)。たっぷりの季節のフルーツにトキの形をしたクッキーがのっていて、思わず「かわいい!」と声をあげてしまいました。
古民家空間 京町亭
- 住所
- 新潟県佐渡市相川八百屋町13
- 営業時間
- ランチ11:30~14:30、ディナー18:00~22:00(3日前までに要予約)
- 定休日
- 火・水曜日
- 公式サイト
- 古民家空間 京町亭
もっと深く町を楽しむ「NIPPONIA」の体験プログラム
「NIPPONIA」ではより深く町の魅力を感じてもらうための体験プログラムを地域と連携して提供しています。その一つが、着古した衣類などを解いて細かく裂いたものを横糸にして折った佐渡の伝統的な「裂き織り」の体験。厚手で丈夫な裂き織りは、かつて鉱山で働く人たちの野良着として重宝されていました。現在では独特の色合いがかわいいとお土産品としても人気です。
実は、「NIPPONIA」のクッションカバーやベッドスローにもこの織物が使われています。そんな佐渡の名産品を作家さんから直々に習えるという貴重な体験。夢中で糸をたたいていくうちに、少しずつランチョンマットができてくると気分がワクワクしてきます。
外国人の旅行客にも人気なのが、金山が栄えた時代から信仰を集める曹洞宗「総源寺」での座禅体験。「禅のモットーは自由であること。座禅は難しいものではなく、静かに瞑想すれば良いのですよ」と住職の藤木大豊さん。座禅を組んで深い呼吸をくり返すと、気持ちが静かに整ってきます。
相川の町を歩き、史跡を巡り、はしご酒をしながら、ちょっぴりシャイで温かい地元の人々とふれ合った2泊3日の旅。はじめて訪れた土地なのに、久しぶりに里帰りをしたように懐かしい気持ちでリラックスできたのは、相川の町人が関わってつくる“まちごと”ホテルのコンセプトのおかげかもしれません。
日常の生活に疲れたら、心と身体を休めにまたここに戻ってこよう、そんな想いにさせてくれる「NIPPONIA 佐渡相川 金山町」。新たな旅の魅力を体験しに金の町・佐渡相川へ出かけてみませんか?
NIPPONIA 佐渡相川 金山町
- 住所
- 新潟県佐渡市相川二町目23
- チェックイン
- 15:00(最終21:00)
- チェックアウト
- 11:00
- 総部屋数
- 7室
- 駐車場
- あり(7台・無料)※要予約
- アクセス
- 両津港から車で約45分・路線バスで約60分、小木港から車で約60分
取材・文/山本美和 撮影/田辺エリ
