商店街の日常に飛び込む、新しい旅。
観光の形は数あれど、まるで故郷がひとつ増えるような旅は、そう出合えるものではありません。それをかなえてくれるのが「セカイホテル大阪布施」です。
商店街の中の客室に泊まりながら、夕食は地元の名店へ、朝は喫茶店へ、風呂は銭湯へ。滞在の舞台は建物の中ではなく、商店街そのもの。気づけば、旅人であることを忘れ、このまちの日常に溶け込んでいる自分がいます。
人とのつながりが薄れゆく今、人情たっぷりの大阪下町は、不思議と新しい力をくれる場所。今回は、その魅力を余すところなく味わえる「1泊10食 食い倒れ宿泊プラン」を体験しました。
10の味を巡り、店主と笑い合い、常連さんに紛れて乾杯する。おなかも心も満たされる、食い倒れステイの始まりです!
目次
「商店街まるごとホテル」とは?
近鉄大阪難波駅から電車で約10分。東大阪市の西端に位置する布施は、大阪と奈良を結ぶ交通の要衝として発展してきたまちです。
商売繁盛の神様をまつる「布施戎神社」が鎮座し、“えべっさんの街”としても親しまれてきました。戦前から続く昭和レトロな商店街はアーケードが整い、雨の日でも歩きやすいのが特長。10以上の商店街組合からなるこのエリアには、多彩な個人商店や町工場が点在し、今も商人と職人の活気が息づいています。
そんな商店街の一角にあるのが「セカイホテル大阪布施」。コンセプトは「商店街まるごとホテル」です。フロントは元洋品店をリノベーションした空間。「キヨシマ」の看板がそのまま残されています。
チェックイン後は商店街そのものが滞在エリアになります。夕食は地元の飲食店へ、朝食は喫茶店へ。大浴場は地域で親しまれてきた銭湯を利用。コンセプトである「旅先の日常に飛び込もう」という通り、宿泊棟の中で完結するのではなく、まちの日常に溶け込む体験が用意されています。
「江戸は履き倒れ、京都は着倒れ、大阪は食い倒れ」。天下の台所と呼ばれた大阪には、商人文化とともに食が磨かれてきた歴史があります。布施もまた、商人のまちとして栄え、多彩な食文化が根付いてきました。
そんな背景のもと誕生したのが「1泊10食付き大阪下町グルメで食い倒れ宿泊プラン」。地元を知り尽くすスタッフが厳選した10店舗を巡り、1泊で10のローカルグルメを堪能します。食べるだけでなく、店主との会話や商店街の空気も味わう。それこそが、このプランの醍醐味です。
チェックインから始まるまち歩き体験
布施駅から徒歩約5分。にぎわう商店街を抜け、路地に入ると現れるのがホテルのフロントです。外観はかつての婦人服店の面影を残しつつ、内装は洗練されたデザインに改装。まちの景色になじみながら、どこか特別感のある空間が広がります。
フロントに掲げられたアートは、セカイホテルが描く「ノーボーダー」な観光の未来図。
年齢も国籍も、ハンディキャップの有無も関係なく、言葉が通じなくても——だれもが描かれた「お祭りの日」のように心から楽しめる滞在を目指しています。
チェックイン時に手渡されるのは、「まちごとホテル館内マップ」と10枚の食い倒れチケット。1店舗につき1枚利用する仕組みです。チケットを眺めるだけで、これから始まる食の旅への期待が高まります。
また、マップには今回の10食プラン店舗以外のおすすめも記載。「セカイホテル大阪布施」の合言葉である「景気よくいこう!」という言葉どおり「ドリンク一杯サービス」「500円以上お買い上げで100円おまけ」などのオリジナルサービスもあるので、お見逃しなく!
さらに便利なのが公式LINEによるデジタルガイド。案内に沿って進めば、Google マップで次の店舗へスムーズにナビゲート。食後に「完食」をタップすると次の目的地が表示され、まるでロールプレイングゲームのような感覚で商店街を巡れます。初めての土地でも迷う心配はありません。
出発前には、1人1回引けるおみくじのサービスも。おみくじには景気づけのアイテムやおすすめスポットが記されています。ちょっとした遊び心も、商人のまちらしいおもてなしです。
大阪下町グルメ食い倒れ1泊10食スタート
1食目「丸幸水産」たこやき
最初の一皿は、やはり大阪名物から。プチロード広小路の「丸幸水産」でいただく、できたてのたこ焼きです。
店主の寺田さんは祖父母の代からこの街で商売を続けてきた、生粋の“布施っ子”。実は音楽プロデューサー・つんく♂さんの弟なのだとか!
この店では、生タコを釜茹でし、氷で締めたプリプリのタコを使用。おすすめは、素材の旨みをダイレクトに感じられる“しょうゆ(素焼き)”と、王道のソース&マヨの食べ比べ。外はふわり、中はとろり。本場の一口が、食い倒れの幕開けを告げます。
2食目「肉のやまじん」コロッケ
次に向かうのは、布施戎神社の表参道にあたる「布施本町通 グリーンのまち中央会」の「肉のやまじん」。昔からメディアでも多く取り上げられる商店街を代表する人気店の一つです。揚げ物だけでも30種類以上をそろえます。
「揚げたてをあげるから、少しまっててね!」と、手際よく揚げられていくコロッケに、思わず見入ってしまいます。
名物は、1日3,000個売れる日もある「なにわコロッケ」。
北海道産の男爵いもに、甘辛く炊いた和牛すじ肉をたっぷり混ぜ込み、サクッと揚げています。何もつけなくても十分おいしいのは、素材と仕込みに手間をかけているから。揚げたてをほおばれば、ほくほくとした甘みが広がります。
3食目「Kitchen friend 怜」からあげ
布施のまんなかに店を構える「Kitchen friend 怜」は、“母の味”を大切にする惣菜店。ショーケースに並ぶ料理はどれも手づくりで、どこかほっとする雰囲気が漂います。
1泊10食プランで味わえるのは、秘伝のタレに漬け込んだからあげ。にんにく醤油が効いた唯一無二のおいしさは、店主の母直伝なのだそう。
外はカリッと香ばしく、中は驚くほどジューシー。ひと口ほおばれば、思わず「これこれ」とうなずきたくなる、まっすぐであたたかな味わいです。
4食目「よしひろ」お好み焼き
いよいよ次は、お待ちかねの夕食です。「よしひろ」または「海鮮居酒屋 房」から選択しましょう。
1948年創業の「よしひろ」では、お好み焼きをはじめとする鉄板焼きが名物。一方、「海鮮居酒屋 房」では元寿司職人の店主による新鮮な海の幸を堪能できます。今回は大阪風情あふれる「よしひろ」をチョイス!
「よしひろ」の味を語るうえで欠かせないのが、4代目兄弟が一から手作りするオリジナルソース。甘口は19種類のハーブとスパイスにカカオやアプリコットを加え、辛口は21種類のスパイスにハバネロ、オレンジ、赤ワインを使用した奥深い味わいです。
1泊10食プランでは、8つのコース料理の中から1つを選択でき、生ビールや酎ハイ、ソフトドリンクなどのドリンク1杯も無料で注文できます。今日は1人前定番コースのBをセレクトしました。ミックスお好み焼きや鉄板焼きホルモン、ガーデンサラダといった豪華なラインアップです。
元気いっぱいの店員さんがかけてくれる美しいマヨネーズさばきはもはや芸術!
お好み焼きを大阪流に格子状に切り分け、テコでそのままほおばれば、気分はもう地元の常連です。
5食目「馬と酒 ~布施の社交場~ 時代おくれ 」二軒目飲み
夕食を堪能したら、もう一軒いきたい……!そんなあなたもご安心ください、しっかり5食目にふくまれていますよ。二軒目は、「沖縄料理 垣花家」または「時代おくれ」へ。
「沖縄料理 垣花家(かきはなけ)」では、宮古島出身のカズさんが作るラフテーやミミガーなど、本場の味を楽しめます。
一方、今回伺った「時代おくれ」は、東京の馬肉専門店で修行した店主が2020年に布施で開いたお店です。赤提灯が灯る店先は、知らなければ通り過ぎてしまいそうなたたずまい。そんな通好みのローカル感こそ、商店街ステイならではの醍醐味です。
「時代おくれ」の赤提灯と色あせたポスターが並ぶ店内は、どこか懐かしい昭和の空気。
この店でいただいたのは「馬刺し盛り合わせ」。1頭からごくわずかしか取れないという「たてがみ」など希少部位に出合える日も。この日は、もも、たてがみ、はらみ、ふたえごをいただきました。コリコリとした食感と、とろける脂の余韻に、思わずもう一杯(※ドリンクは別途注文)。リーズナブルな価格の創作料理の数々もぜひ楽しんで。
6食目「戎湯」風呂上がりの一杯
一日の締めくくりは銭湯へ。向かうのは、布施戎神社のそばにある「戎湯」。1958(昭和33)年創業、地域に愛され続けてきた存在です。フロントで貸し出しされる昔ながらの「桶」をもって向かいましょう!
街の銭湯とはいえ、ドライサウナや水風呂、電気風呂、露天風呂、打たせ湯などが備わる充実ぶり。歩き回った身体をゆったりとほぐしてくれます。
このプランには、入浴料金と湯上がりのドリンク1杯が含まれています。コーヒー牛乳やフルーツオレ、コーラ、ジンジャーエールなど、冷えた一本を一気に飲み干せば、身体の奥からじんわりと幸福感が広がるはず。
7食目「御菓子司モモヤ」みっくすじゅーす大福
大阪の喫茶文化を代表する「ミックスジュース」が、1952(昭和27)年創業「御菓子司モモヤ」では「みっくすじゅーす大福」に。やわらかな餅の中にはパイナップルやバナナなどフルーツが!大阪名物「みっくすじゅーす」の味わいが忠実に表現されています。
営業時間の9:30~17:40の間に引き換えておいて、夜食にするのがおすすめ。
小腹がすく夜中に、パクッとひと口。旅だからこそ許される、禁断のご褒美スイーツです。
8食目「池田屋珈琲 」大阪流モーニング
商店街の一日は喫茶店から始まります。翌朝は朝食会場の「池田屋珈琲」または「カフェプレール」へ。選べるメニューから無料で朝食をどうぞ。※両店は姉妹店で、メニューは同じです。
名物ミックスサンドは、ふわふわ白パンに自家製の厚焼き玉子をどっしりサンド。だしのしっかり効いたやさしい味に、口に入れた瞬間、朝の身体がゆっくり目を覚まします。
9食目「紀の国屋」えびコロッケ
ランチは、水~日曜日は「紀の国屋」、月・火曜日は「韓国料理屋 チング」へ。
この日は、戦後間もなく創業し、70年以上にわたり家族三代で味を守り続けてきた「紀の国屋」を訪れました。ランチタイムには行列ができる、布施きっての人気洋食店です。
ここではランチの「えびコロッケ定食」をいただきます。
えびを一尾まるごと包んだぜいたくなえびコロッケ。クリームではなく、ほくほくのじゃがいも仕立てというのも特徴です。さくりと軽やかな衣の中に、えびの旨みがぎゅっと詰まった一皿。代々受け継がれてきたデミグラスソースが味を引き締め、どこか懐かしく、それでいて確かな満足感をもたらしてくれます。
月・火曜日は「韓国料理屋 チング」へ。ママのおすすめの「純豆腐」あるいは「ビビンバ」のランチをいただけるそう。
10食目「金太郎パン」あんぱん
ついに10食目。締めくくりは、お土産です。
大正時代創業の老舗ベーカリー「金太郎パン」。店名には、「この町の子どもたちに金太郎のように元気に育ってほしい」という願いが込められています。
この店のあんぱんは、しっとり生地に甘さ控えめの粒あんが入った、素朴でまっすぐな味。あんは毎日店内で炊き上げ、砂糖と小豆は1:1の黄金比。ただし、気温や湿度に合わせて微調整を重ね、“いつもの味”を守っているのだそう。
1泊10食、ついに完食!味はもちろん、人との出会いも含めて“布施を丸ごと味わう旅”がここにあります。きっとおなかだけでなく、心まで満たされているはずです。ちなみにランチや夕食・朝食はしっかりと一人前ですが、たこ焼きやから揚げなどの食べ歩きメニューはほどよいサイズ感。実際に体験してみて、女性でもペロリと1泊10食を完走できました!
商店街の中の客室
客室コンフォート
このホテルの客室は、商店街の中に点在しています。コンフォートタイプは定員1〜4名で、リビング+ベッド(シングル2台+布団2組)が備えてあります。
水回りは清潔感があり快適。バスルーム、洗浄器付トイレ、洗面所を完備。インターネット、冷蔵庫、湯沸かしポット、コーヒーカップ、お茶セット、ドライヤー、各種アメニティも客室にそろっています。カミソリ・ヘアブラシなどはフロントで必要分を受け取りましょう。寝間着の用意はないため、お持ちください。
デラックス 商店街ビュー
「デラックス商店街ビュー」は、和洋菓子店と婦人服店をリノベーションした客室。そのままになっている看板がレトロでかわいらしいですね。
2Fはリビング+ベッド(シングル4台+エキストラベッド2台)、1Fはバスルーム・洗浄機付トイレを備えています。ベッド数も多いので、グループやファミリーでの旅行にぴったり。ベッドの高さが高くないので、赤ちゃん連れにも好評なのだそう。
リビングと寝室をつなぐ大きな梁が特徴的です。
客室には電子レンジも完備。お皿やフォーク、スプーン、加湿器、毛布なども貸し出し可能で、長めの滞在でも快適に過ごせます。
セカイホテルが目指す、新しい観光の形
滞在中、まるで布施の常連のようにまちに溶け込み、いつしか愛着が芽生えていく……。そんな時間を過ごしたあと、名残惜しい気持ちで迎えるチェックアウトの際に紹介されるのが、「Social good 200」の取り組みです。
「Social good 200」とは、宿泊料金のうち200円を、「まちを創るDIY」「地域の子どもの未来」「世界中の子どもたちのため」という3つのテーマのいずれかに積み立てる仕組みです。チェックアウトの際、どのテーマに充てるのかを問われます。
「一方的に観光客としておもてなしをするだけではなく、地域住民・観光客・ホテルの三者が対等で友好的な関係を築く、新しい観光モデルを目指しているのです」と、プロジェクトマネージャーの北川さんは語ります。
その想いを象徴するのが、フロント前の看板に貼られた、布施の子どもたちのためのドリンクチケット。実はこれらは、宿泊者の寄付によってまかなわれています。布施に滞在し、このまちを好きになった人たちの厚意が、地域の子どもたちへとつながっているのです。
「まちの子どもたちが、さまざまな場所から訪れる宿泊者と気軽にコミュニケーションをとり、世界を広げるきっかけになればうれしいですね」と北川さん。
それはまさに、コンセプトである「旅先の日常に飛び込む」という体験の、その先に広がる風景なのかもしれません。
道頓堀や新世界とはひと味違う、大阪の素顔に出合える布施の商店街。「セカイホテル大阪布施」の「1泊10食プラン」は、単なるグルメ企画ではありません。商店街を歩き、店主と言葉を交わし、銭湯でひと息つく。まちの日常に溶け込む時間こそが、この旅の魅力です。10食を食べ終えたころには、「観光した」というより、「まちで過ごした」という充実感をきっと感じるはず。
次の週末は、布施で“旅先の日常に飛び込む”体験をしてみませんか。
セカイホテル大阪布施
- 住所
- 大阪府東大阪市足代1-19-1
- アクセス
- 近鉄「近鉄布施」駅より徒歩約5分
- 駐車場
- 無し
- チェックイン
- 15:00 (最終チェックイン:22:00)
- チェックアウト
- 10:00
- 総部屋数
- 39室
撮影・取材・文/北川 りさ
