もくもくと蒸気を上げながら漆黒の車両が疾走する「SL大樹(たいじゅ)」。現役の蒸気機関車として、拠点となる下今市駅から日光・鬼怒川エリアをつなぎ、まるでタイムスリップしたような景色が見られると話題です。下今市駅にはSL展示館や転車台などSLにまつわる施設が充実。SLを間近で見られたり、昔の鉄道について学べたりと、SL大樹に乗車せずともSLの魅力をたっぷりと堪能できます。
レトロな駅舎の下今市駅
世界遺産を有し国内外から多くの旅行客が訪れる日光。その玄関口の下今市駅は、昔から人や物が行き交っていた街道の分岐点に位置し、浅草駅から特急列車で1時間40分ほどです。
あたたかみのある木造の駅舎や昔ながらの横書きで旧字体の駅名看板など、その姿は旅情をかきたてるのに十分。吸い寄せられるように中へ入ると、改札ではなく出札口と書かれた窓口に、その頭上には味わいのある電灯など、SLが現役で走っていた昭和レトロな世界が細部にまで宿っています。
建物に併設されている待合室も必見。当時をほうふつとさせる展示品が並び、昭和のポスターやモノクロ写真に囲まれていると現代からタイムスリップしたような気分に。
当時、一世を風靡していたクラリオン製のカラオケ機器や東芝のカセットレコーダーからは今にも歌謡曲が流れてきそうで、コカ・コーラの自動販売機は破格の60円という文字が記されています。
ホームに出てみると、駅名標は味わい深い白塗りの木製。
洗面台は国鉄時代によく見られた風景で、冷房がない列車での旅路を少しでも快適に過ごすための名残です。
「賣店(ばいてん)」と書かれた場所にはSL大樹の記念メダルやおもちゃが販売されているので、ぜひのぞいてみてください。
転車台広場
ホーム奥には全国的にも珍しい転車台や機関庫があります。乗車券または下今市駅の入場券で近くまで見学できるとあって平日も鉄道好きやファミリーでにぎわっています。
列車の向きを変えるための転車台は、車両の前と後ろが決まっているSLに欠かせないもの。東武線には2つの転車台が下今市駅と鬼怒川温泉駅にあり、どちらも国鉄時代のものをJR西日本より譲り受けました。
SL運転日には転車台が実際に使用されている様子を間近で見学できます。点検を終えたばかりのディーゼル機関車が機関庫から転車台に移動し、その精悍な姿を披露。SL大樹の最後部に連結され、走行を力強くサポートする存在です。
期待が高まるなか、いよいよSLも登場!シックな黒塗りの車両は凛々しく、外観は一度見たら忘れられないほど特徴的。SLの魅力として挙げられるのが、その車体から放たれる躍動感。前へ進むごとに車輪や連結している部分が動き、まるで命を宿した生き物のようです。
空気を裂くような汽笛の音色、力強く湧き上がった水蒸気など、SLの存在感は絶大。そんな雄姿を間近で見られるのはとても貴重なことで、子どもも大人も夢中になって追いかけます。
SLが転車する時間は決まっているので、見逃したくない場合は事前に公式サイトで確認しておくと安心です。また機関庫は側面がガラス張りになっていて点検中の様子も見られます。
SL展示館
転車台の近くには2階建てのSL展示館があり、誰でも無料で利用できます。1階奥はイスなどが置かれた休憩スペースになっていて、手前には地元出身の書道家・涼風花(りょう ふうか)さんによる力強い大樹の書と列車の模型2台が置かれています。
それぞれの模型には実は楽しく列車を学べる仕掛けが。SL型の方には機関室があり、そこには石炭庫と石炭を燃やす火室(かしつ)も完備。スコップで石炭を投入することで機関助士と同じ動きを体験することができるのです。
青い客車の方には乗務員室があり、スイッチを押すとヘッドライトが点灯。車内アナウンスに使うマイク、扉を開閉するスイッチは実は実際の車両に使用されているのと同じもの。子ども用の設備にも本物の機材が備えられ、電車好きな子どもの夢を叶えてくれる、粋なスポットになっています。
東武鉄道では鉄道の魅力を分かりやすく紹介しているキッズ用サイト「TOBU Kids」も。SLの仕組みや新型特急のスペーシア Xなど、気になる情報が満載です。
2階は、まさにSLの魅力が詰まった空間。実物大のSLの車体や運転室の写真が飾られていて、隣に立ってみると予想以上に車輪が大きいことにびっくり!SLに関するクイズもあるので、楽しみながら学べるのもポイントです。
中央には鬼怒川エリアをイメージした鉄道模型のジオラマが広がり、杉並木や鉄橋をSL大樹が走行。走るスピードが遅くなったり、速くなったりと本物さながらの臨場感を味わえます。
記念撮影用の特製パネルも用意されているので、ぜひ写真撮影もお忘れなく!ほかにもギャラリーでは、蒸気機関車が現役で活躍していた頃の写真が懐かしい風景とともに紹介されています。
SL展示館
- 営業時間
- 平日 8:45~17:00
土休日 8:45~18:00
旧跨線橋レトロギャラリー
下今市駅にある古い跨線橋(こせんきょう)は、レトロギャラリーになっています。かつて多くの観光客や通学生・通勤客がホームへ向かうために使った橋は歴史的価値が評価され、登録有形文化財にも登録されています。
壁には昭和のポスターが飾られ、ノスタルジックな雰囲気。
「東武鬼怒川線の歴史めぐり」という案内板には1929年より始まった路線の歴史に始まり、SLが運行していた1940年代などを紹介。日本の近代化を象徴するトラス橋や地元の石材を活用したプラットホームなど、時代と地域とともに発展してきた多くの設備が実は登録有形文化財になっていることに驚かされます。
そして鉄道の財産は他にも。今でこそ東武鉄道の顔になっているSL大樹の蒸気機関車をはじめ、車掌車、客車、ディーゼル機関車は全国の鉄道会社から譲渡・借用されたものです。SL大樹はまさに奇跡の賜物。昭和から令和、さらに全国から託されたSLへの想いが下今市駅に集結し、今日も新たな鉄道ファンを歓迎しています。
取材・写真・文/浅井みら野

