2016年4月に発生した熊本地震から2026年で10年。大きな揺れが繰り返し襲ったあの日から節目の年を迎えます。
熊本城をはじめ、被害を受けた地域や建築物は現在も復旧・復興が続いています。崩落した状態で保存されている橋や、震災の教訓を体系的に学べる施設など、熊本県内には「あの日」と向き合える場所が多数。
実際に現地を訪れ、街を歩くことで、復興の現状や地域の取り組みが見えてきます。過去の出来事として終わらせるのではなく、防災や将来への備えを考える機会として、熊本の10年をたどる旅をしてみませんか。
目次
・地震への認識を変えた熊本地震
・今もなお復旧が続く「熊本城」
・崩れた「阿蘇大橋」と、その後
・熊本地震震災ミュージアム「KIOKU」
・ONE PIECE 熊本復興プロジェクト
・ファン必見!「ONE PIECE 熊本復興プロジェクト10年展」
地震への認識を変えた熊本地震
2016年4月に発生した熊本地震。4月14日に震度7の前震が発生し、その約28時間後、4月16日には同じ地域で再び震度7の本震が起こりました。
短い間隔で最大震度7が2度観測されたのは、国内でも前例のないことでした。さらに、震度1以上の地震は半年で4,000回を超え、余震の多さも大きな特徴です。
また、それまで地震は最初の揺れが本震で、その後は小さな余震が続くものと考えられてきました。
しかし、大きな揺れの後でもさらに大きな揺れが起こりうる。「私たちが本震だと捉えていた揺れも、実は過程の一部にすぎないかもしれない」。熊本地震は地震に対する認識を見直す、大きなきっかけにもなりました。
今もなお復旧が続く「熊本城」
熊本県のシンボル「熊本城」も地震で甚大な被害を受けました。
熊本城は1607(慶長12)年に武将・加藤清正(かとうきよまさ)によって、当時の最先端技術を用いて建てられた堅固な防御構造の城です。
清正の没後は息子の忠広が城主となりましたが、加藤家の改易(大名の領地・屋敷・身分を没収し、家を断絶させる処分のこと)により、小倉から細川忠利(ほそかわ ただとし)が入国。以降、江戸時代が終わるまで細川家が治めました。
明治時代に入ると、熊本城は西南戦争の戦場に。近代兵器が用いられる状況下でも、築城当時の防御構造が機能し、城としての防御力を発揮しました。清正の築城技術がいかに優れていたのかがよくわかります。
なお、本丸御殿や天守などの主要な建築群は、西南戦争の直前に火災によって焼失しているため、現在の天守は1960(昭和35)年に鉄筋コンクリート造で再建されたもの。創建当時の外観が忠実に再現されています。
熊本城の被害の様子
熊本城には西南戦争の火災も免れた、築城当初から残る重要文化財が13棟あります。しかし、そのすべてが2016年の熊本地震で被害を受けました。
なかでも、城の防御を担う長大な櫓(やぐら)「東十八間櫓(ひがしじゅうはちけんやぐら)」と「北十八間櫓(きたじゅうはちけんやぐら)」は完全倒壊。
大天守・小天守も屋根瓦が落下する被害を受けました。復興の象徴として復旧工事にいち早く着手し、2021(令和3)年に完了。現在は美しい姿を再び見ることができます。
熊本城で一番被害が大きかったのが石垣。石垣は全部で973面(約79,000平米)ありますが、そのうち約1割にあたる229面(約8,200平米)が崩落。また、ゆるみや膨らみが見られ、全体の約3割相当の517面(約23,600平米)に積み直しが必要となりました。
4月14日の前震では、石垣の崩落は6カ所にとどまったものの、16日の本震で50カ所を超える石垣が被害を受けました。地震の規模の大きさがうかがえる数値です。
熊本城は、「戦の名手・清正公が造った堅固な城」と称されるほど、幾重もの石垣に囲まれた構造で、被害はかつてない規模になってしまったのです。
写真提供:熊本城総合事務所
写真提供:熊本城総合事務所
今も宇土櫓(うとやぐら)や飯田丸五階櫓、田子櫓などの復旧が続いていて、城全体の復旧は2052年頃までかかる見込みです。
写真提供:熊本城総合事務所
城の石垣は、ただ積めばよいわけではありません。崩れた石垣は元の位置に正確に積み直すのが基本で、さらに積み直す際には将来的な安全性への考慮も必要です。
熊本城特別見学通路
現在、「熊本城特別見学通路」が設けられ、被害状況や復旧工事の様子を見ることができます。城内は南北2つの特別ルートからのみ見学可能です。
実際に現地を訪れ、復元作業を目にすることで、被害の大きさと復興への歩みを直に感じることができます。
また、熊本城では復旧・復元の寄付を募るため、1口1万円以上の寄付で「復興城主」として登録される制度を採用。「城主証」や「城主記念札」の発行など、ユニークな取り組みを行っています。
熊本城
- 営業時間
- 9:00~17:00(最終入場16:00)
- 定休日
- 12月29日
- 入場料
- 高校生以上 800円 、小・中学生 300円、未就学児 無料
- 住所
- 熊本県熊本市中央区本丸1-1
- アクセス
- 【電車】JR「熊本」駅から市電「熊本城・市役所前」停留所下車、徒歩約10分
【車】九州自動車道「熊本」ICから約30分 - 公式サイト
- 熊本城
崩れた「阿蘇大橋」と、その後
熊本地震で特に被害が大きかった地域が、益城町(ましきまち)、西原村、南阿蘇村。
益城町では、2016年4月14日の前震、4月16日の本震ともに震度7を観測。町内のおよそ98%の家屋が被災するという、壊滅的な被害に見舞われました。
西原村でも前震で震度6弱、本震で震度7を記録。村内の約56%にあたる1,337戸の家屋に全半壊の被害をもたらしました。
南阿蘇村では、本震で震度6強を観測。地表には地震断層が現れ、村を引き裂くような大きな揺れが襲いました。突き上げるような衝撃で多くの家屋が倒壊し、各地で斜面崩落が発生。夜には土砂災害も起こり、被害は広範囲に及びました。
さらに、交通網も大きな打撃を受け、JR豊肥本線や南阿蘇鉄道は不通に。加えて、国道57号線や阿蘇大橋、長陽大橋、俵山トンネルなど主要道路も寸断され、人の移動も物流も大きく制限されました。
震災遺構「旧阿蘇大橋」
なかでも大きな衝撃を与えたのが、「阿蘇大橋」の崩落です。熊本城から東へ車で約1時間の場所にあります。
阿蘇外輪山と南阿蘇を結ぶ全長約200メートルの橋が崩れ落ちたことで、南阿蘇への主要ルートは寸断。地域は一時孤立状態になってしまったのです。
橋は谷底まで落ちることなく、峡谷の中腹にある岩盤に偶然引っかかって止まりました。その姿は震災の凄まじさを伝える遺構として残されています。
2021年3月には、もともと橋が架かっていた場所から約600メートル下流側に「新阿蘇大橋」が架け替えられました。震災で崩落した橋は区別する意味で「旧阿蘇大橋」と呼ばれています。
新たな国道として復旧した国道57号線沿いにある「数鹿流崩之碑展望所(すがるくずれのひてんぼうじょ)」からは、旧阿蘇大橋と新阿蘇大橋を見渡せます。
2本の橋を見比べると、震災が刻んだ現実と、それを乗り越えようとする人々の力の両面が見えてきます。
数鹿流崩之碑展望所
- 営業時間
- 24時間見学自由
- 定休日
- なし
- 住所
- 熊本県阿蘇郡南阿蘇村立野301-2
- アクセス
- 【車】九州自動車道「熊本」ICから約40分
新阿蘇大橋と新阿蘇大橋展望所「ヨ・ミュール」
新阿蘇大橋のたもとには、「新阿蘇大橋展望所 ヨ・ミュール」もあります。2021年3月、新阿蘇大橋と同時に完成しました。
「ヨ・ミュール」とは、熊本弁で「よく見える」の意味。名前の通り、新阿蘇大橋や渓谷の雄大な景色を間近に感じられるスポットです。
敷地内には売店「kibaco」があり、南阿蘇の牛乳で作ったソフトクリーム「リボンソフト」(600円)を味わえます。ほっとひと息つくのにもぴったりのスポットです。
新阿蘇大橋展望所「ヨ・ミュール」
- 営業時間
- 24時間
【kibaco】9:00~17:00 - 定休日
- なし
- 住所
- 熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陽4396-16
- アクセス
- 【車】九州自動車道「熊本」ICから約40分
熊本地震震災ミュージアム KIOKU
ヨ・ミュールから北へ5分ほど車を走らせると、「熊本地震震災ミュージアム KIOKU」があります。被災した建物と地表に現れた地震断層を保存する国内で唯一の貴重な施設です。
震災遺構「東海大学 阿蘇キャンパス旧1号館建物」と「地表地震断層」
「熊本地震震災ミュージアム KIOKU」があるのは、かつて東海大学農学部の学生たち約1,000名が学んでいた東海大学 阿蘇キャンパスの跡地。熊本地震で大きく被災したため、キャンパスは阿蘇くまもと空港の隣へ移転しました。
当時、この場所を含む阿蘇カルデラ内に活断層が存在することは知られておらず、地震後の調査によって初めて明らかになりました。断層はこの旧東海大学 阿蘇キャンパス内を貫き、キャンパス付近から30キロメートル以上にわたって地表に亀裂や大きなズレを生じさせました。
熊本地震震災ミュージアム KIOKUの展示施設を進むと、地表に現れた断層が震災遺構として保存されていて、間近に見ることができます。
また、鉄筋コンクリート造の旧1号館は、下を貫く断層によって柱や壁が破壊され、床面には大きな亀裂と隆起が。このように、断層のズレによって直上の鉄筋コンクリート建物の基礎が破壊され、その痕跡が残されている事例は世界でも極めて稀なのだとか。
被災した建物や断層は、地震大国・日本に暮らす私たちに、災害は決して他人事ではないことを静かに伝えています。また、日頃からの心構えと備えの大切さを強く問いかけてくれる場所です。
室内展示「KIOKU」で地震について学ぼう
室内は3つの展示室からなり、熊本地震の被害の大きさや地震の発生メカニズム、防災について学べます。
展示室1は「『その時』の記憶をたどる」をテーマに、当時の映像や遺物、写真を展示。土砂に押しつぶされた乗用車や道路標識、地震発生時刻で止まったままの時計などが展示され、地震のおそろしさを言葉以上に伝えます。
この地域で暮らす人たちから寄せられた、地震当時の証言集を読むことも。ページをめくるたびに、それぞれの体験が胸に迫り、震災が一人ひとりの暮らしに残した影響の大きさを実感させられます。
「熊本の大地を知る」がテーマの展示室2では、熊本の地形や地質と地震との関係を学べます。
各展示室には、語り部ガイドが常駐しているので、タイミングが合えば、詳しい話や当時の体験談を聞くこともできます。
展示室3は「自然とともに生きるためには」がテーマ。被災者の証言を手がかりに、未来への備えを考える展示室です。
南阿蘇村のシンボルともいわれる景観「一心行の大桜」をモチーフにしたメッセージボードには、この施設を訪れた人たちが寄せたたくさんの感想が綴られています。英語、中国語、トルコ語など外国語も多いことから、海外の人たちにも熊本地震の記憶が広く共有されていることを感じました。
熊本地震の記憶や教訓を後世に伝える「熊本地震震災ミュージアム KIOKU」。震災について“知る”だけでなく、改めて“自分ごととして考える”大きなきっかけになるはずです。
熊本地震震災ミュージアム KIOKU
- 営業時間
- 9:00~17:00(最終入館16:30)
- 定休日
- 月曜(祝日の場合は翌日休)、12月29日~1月3日
- 入館料
- 大人 500円、県外中高生 400円、県外小学生 300円(県内小中高生は無料)
- 住所
- 熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陽5343-1
- アクセス
- 【車】九州自動車道「熊本」ICから約45分
- 公式サイト
- 熊本地震震災ミュージアム KIOKU
ONE PIECE 熊本復興プロジェクト
熊本旅にもうひとつの楽しみを添えてくれるのが「ONE PIECE 熊本復興プロジェクト」。熊本県出身の漫画家・尾田栄一郎氏が描く漫画『ONE PIECE』と熊本県が連携して立ち上げた「ONE PIECE熊本復興プロジェクト」の一環で、熊本県内の9市町村で麦わらの一味の10体の銅像に出合えます。
ストーリーは、ヒノ国(熊本)に上陸した麦わらの一味の船長・ルフィが、一味の仲間たちに熊本地震被災地復興の手助けを指示。仲間たちは県内9市町村に分かれ、それぞれの特技で被災地の困りごとを解決し、復興へのエールを送るルフィのもとで再会を誓うというもの。
モンキー・D・ルフィ像
ルフィ像があるのは、熊本城や水前寺成趣園(水前寺公園)のある熊本市。熊本県庁本館の正面入口とメイン門の間のプロムナードに設置され、「ヒノ国」熊本復興のシンボルとして多くの人を迎えています。
ルフィ像の足元には、尾田栄一郎氏の手形とサインも。取材時も、持参した麦わら帽子をかぶってポーズを決める人など、多くの観光客が思い思いの撮影を楽しんでいました。
また、キャラクターとセリフを重ねた写真を撮影できるARフォトイベントも実施されています。
モンキー・D・ルフィ像
- 営業時間
- 24時間
- 定休日
- なし
- 住所
- 熊本県熊本市中央区水前寺6-18-1 熊本県庁内プロムナード
- アクセス
- 【電車】JR「新水前寺」駅からバス「熊本県庁前」停留所下車、徒歩約3分
【車】JR「熊本」駅から約16分、「阿蘇くまもと空港」から約30分
ニコ・ロビン像
先ほど紹介した「熊本地震震災ミュージアム KIOKU」の旧東海大学 阿蘇キャンパス前には、麦わらの一味の考古学者・ロビン像が設置されています。
ロビンは熊本地震震災ミュージアム KIOKUに考古学者として駆け付け、地震の被害と教訓を後世へ伝える役割を担う存在。南阿蘇村の復興が花開くよう、研究を重ね、記憶と教訓を未来へ受け継ぐ手助けをしています。
ニコ・ロビン像
- 営業時間
- 9:00~17:00(最終入館16:30)
- 定休日
- 月曜(祝日の場合は翌日休)、12月29日~1月3日
- 住所
- 熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陽5343-1 熊本地震震災ミュージアム KIOKU内
- アクセス
- 【車】九州自動車道「熊本」ICから約45分
ほかにも、ゾロやサンジ、ウソップなど、麦わらの一味の銅像が熊本県各地に設置されているので、ぜひあわせて巡ってみてください。
周遊には、像の設置場所やモデルプラン、熊本の観光やグルメ、アクセス情報などをまとめた周遊ガイドブックがあると便利。WEBで公開されているほか、冊子がJR熊本駅(1階総合観光案内所)や阿蘇くまもと空港(1階セブンイレブン)、熊本県庁(地下1階売店)、熊本地震震災ミュージアム KIOKU(入館受付)、SAKURA MACHI Kumamoto(2階総合案内所)などで配布(無料・数量限定)されています。
詳細は、「ONE PIECE熊本復興プロジェクト」公式サイトで確認できます。
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※周遊ガイドの受け取りには周遊アプリ「IKOU」(無料)が必要です。
ファン必見!「ONE PIECE 熊本復興プロジェクト10年展」
2026年3月20日~5月24日には、熊本県立美術館で「ONE PIECE 熊本復興プロジェクト10年展」を開催。漫画『ONE PIECE』の世界と現実の世界が溶け合う空間で復興の物語を体感できる企画展です。
銅像の原型や尾田栄一郎氏の色紙など、ここでしか見られない展示も。さらに、これまでの各プロジェクトのメイキングも公開され、制作の裏側に触れられる貴重な機会となりそうです。
ONE PIECE 熊本復興プロジェクト10年展
- 会場
- 熊本県立美術館 本館1階(熊本県熊本市中央区二の丸2)
- 開催期間
- 2026年3月20日~5月24日
- 営業時間
- 10:00~17:00
- 定休日
- 月曜(2026年5月4日は開館、5月7日は振替休)
- 料金
- 入場無料(公式サイトにて事前予約必須)
- 公式サイト
- ONE PIECE 熊本復興プロジェクト10年展
熊本地震の記憶と向き合い、復興の歩みをたどることは、防災やこれからの備えを考えるきっかけにもなります。日中は熊本城や阿蘇の震災遺構、ミュージアムを巡り、地域の“いま”に触れ、夜は市内や南阿蘇の温泉でゆったりと過ごす。そんな1泊2日の旅もおすすめです。
熊本地震から10年となる2026年。節目の年だからこそ、学びと楽しみの両方に出合う熊本旅に出かけてみませんか。
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取材・文/原口 可奈子 撮影/井上 由紀子
