伝統工芸の「輪島塗」や、千年以上続き日本最古の朝市とも言われる「輪島朝市」で知られる石川県輪島市。毎年、国内外から多くの観光客が訪れ、独特の文化と活気に満ちた街でした。しかし、2024(令和6)年1月の能登半島地震、そして9月の豪雨災害によって街の風景は一変。甚大な被害に見舞われ、観光客は姿を消しました。
震災からまもなく2年が経つ今、街には少しずつ灯りが戻り始めています。営業を再開した店が増え、復旧・復興への歩みが日々進んでいます。そして現地で耳にしたのは、「来てもらうことが復興につながる」という、切実でまっすぐな思い。今回、そんな輪島の“今”を知るための旅へと出かけました。
Day1
旅のはじまりは輪島の玄関口「道の駅輪島(ふらっと訪夢)」
北陸新幹線の開業で東京から金沢までの移動が便利になり、金沢から車や高速バスに揺られて約3時間。輪島市は、奥能登と呼ばれる能登半島の最先端に位置します。輪島に着いて最初に立ち寄ったのは、旧のと鉄道・輪島駅の跡地を活用して造られた「道の駅輪島(ふらっと訪夢)」 。
観光案内所や飲食店、お土産売店が充実し、輪島塗など地元特産品の購入や観光情報の収集ができます。廃線当時のホームや駅名標が残り、写真スポットとしても人気。金沢からのバスターミナルとして交通拠点の役割も果たす施設です。
道の駅輪島(ふらっと訪夢)
- 住所
- 石川県輪島市河井町20-1-131
- 営業時間
- 9:00~17:00
- 定休日
- 年中無休
- アクセス
-
【車】金沢からのと里山海道「のと三井」ICで下車して約15分
【バス】金沢駅から北陸鉄道輪島特急バスで約3時間、「輪島駅前」下車 - 詳細
- 道の駅輪島(わじま観光案内センター)
海の幸も、能登牛も! 能登の食材を気軽に味わえる「食事処わじもん」
初日のランチに選んだのは、能登の食材を気軽に楽しめると評判の「食事処わじもん」。夜は居酒屋として親しまれていますが、昼はボリューム満点の定食が評判です。
何より魅力的なのは、海の幸の豊かさ。日本海に面した輪島では、冬のブリをはじめ、鮮度抜群の海鮮がそろいます。この日いただいた刺身は身が締まり、噛むほどに旨みが広がる濃厚な味わいでした。
続いて焼きメバル。能登では“ハチメ”と呼ばれるメバルは、肉厚で香ばしく、白身のやわらかさが際立ちます。
そして、能登のもう一つの名物「能登牛」。県外ではほとんど出回らない貴重な和牛で、細かな霜降りと上品な脂が特徴です。「能登牛の炙り」は、口の中でふわりと溶けるようなやわらかさで、とてもぜいたくなひと皿でした。
食事処わじもん
- 住所
- 石川県輪島市マリンタウン4-2
- 営業時間
- 11:30~13:30/18:00~22:00
- 定休日
- 日曜・祝日
※営業時間・定休日は変更となる場合があります。 - 電話番号
- 0768-23-4999
歴史と伝統の復活を目指す「輪島朝市通り」
次に向かったのは、日本三大朝市の一つ「輪島朝市」が行われてきた本町商店街。かつては毎朝200を超える露店が並び、地元の人と観光客で賑わう輪島の象徴ともいえる場所でした。
ところが、能登半島地震とその直後に発生した大規模火災によって周辺の約300棟が焼失。道の両脇を埋めていた店のほとんどが姿を消し、現在は多くの区画が更地のままです。
それでも、街は確かに前へ進んでいます。大正元年創業の酒蔵「日吉酒造店」は、奇跡的に延焼を免れた建物の一つ。周囲の建物を次々と飲み込んでいった地震後の大火は、幸いにも同店の目の前で鎮火したそうです。
とはいえ、酒造りに使っていた土蔵は全壊し、一時は製造が不可能となりました。震災後は県内の酒蔵の設備を借りる形で仕込みを再開し、仲間の力を借りながら少しずつ“輪島の酒”の灯を守り続けています。
能登の米と水を使った看板銘柄の「金瓢白駒」は、まろやかでありながらきりりとした辛口が特徴で、長年愛されてきた理由がわかります。
日吉酒造店
- 住所
- 石川県輪島市河井町2部27の1
- 営業時間
- 9:00~12:00/13:00~15:00
- 定休日
- 土・日曜
- 電話番号
- 0768-22-0130
- 詳細
- 能登輪島の地酒 日吉酒造店
日吉酒造店の向かいには、カフェ&ギャラリー「KALPA(カルパ)」があります。こちらも火災や倒壊を免れた数少ない建物の一つ。木の温もりある開放的な店内では、ハンドドリップのこだわりコーヒーや手作りスイーツなどを提供しています。
地元作家の輪島塗や工芸品などを展示・販売するギャラリースペースも併設し、被災後の街の中にあっても人が集い、ひと息つける大切な場所になっているようでした。
KALPA
- 住所
- 石川県輪島市河井町2-72-1
- 営業時間
- 8:30~17:00(火・木曜は12:00まで)
- 定休日
- 水曜
- 詳細
- 輪島・朝市のカフェ KALPA
銘菓の老舗は仮設店舗で再開。名物「えがらまんじゅう」も買える「わいちストア NAKAURAYA」
街の中には、国の補助により設置された仮設店舗で営業を再開するお店が増えつつあります。輪島を代表する銘菓の老舗「柚餅子(ゆべし)総本家中浦屋」が手掛ける「わいちストアNAKAURAYA」もその一つ。店内では地元で親しまれてきた中浦屋の銘菓はもちろん、能登各地の特産品や漆器なども販売しています。
「えがらまんじゅう」は地元の人が口をそろえて勧める人気商品で、こし餡を包んだ餅生地の上に、くちなしで黄色く染めた米粒がちりばめられた素朴でかわいらしい一品。その見た目が栗のイガ(毬)に形が似ていることから「いがら」がなまり、「えがら」に変化したのだとか。人気商品のため、この日も完売寸前でした。
わいちストア NAKAURAYA
- 住所
- 石川県輪島市河井町4-91
- 営業時間
- 10:00~16:00
- 定休日
- 木曜
- 電話番号
- 0768-22-0131
- 詳細
- NAKAURAYA
街を歩くと、仮設店舗で営業を再開した居酒屋やスナックに灯りがともり始めていました。日常の小さな光が戻りつつあるのを感じ、胸が温かくなりました。
サクサクした衣がたまらない!輪島のソウルフード「かかし」の発祥「藤田総本店」
朝市通りの脇道にある老舗精肉店「藤田総本店」も、輪島きっての名店です。コロッケが評判ですが、お目当ては輪島のソウルフード「かかし」。
「かかし」は、うずらの卵、赤ウインナー、フランクフルトを串に刺し、衣をつけて揚げたもので、その姿が田んぼに立つ“かかし”に似ていることから名付けられたそうです。50年以上も地元の人々に愛され続けてきた味で、素朴ながらもサクサクした揚げたての香ばしさがたまりません。震災前の朝市でも人気だった一品を、まち歩きしながら熱々のうちに頬張る瞬間は、旅の醍醐味そのものです。
藤田総本店
- 住所
- 石川県輪島市河井町2-270-1
- 営業時間
- 11:00~13:00/16:00~18:00
- 定休日
- 日・月曜
- 電話番号
- 0768-22-0310
- 詳細
- 藤田総本店
街の中には、震災と豪雨のすさまじさを物語る光景も
復旧・復興が進む一方で、街には震災と豪雨の爪痕がまだ残ったままです。地盤の隆起で割れてしまった歩道、地面から大きく突き出たマンホール、倒壊した建物――その一つひとつが、災害の激しさを物語ります。
輪島の守り神として親しまれてきた「重蔵(じゅうぞう)神社」は、社殿の大部分が倒壊するなど甚大な被害を受けました。震災直後は境内が炊き出しの拠点となり、備蓄していた米で作ったおにぎりを配って地域の人たちを支えたといいます。
輪島市ふれあい健康センターの前に立つ「輪島市水害水位表示塔」には、過去に発生した水害の水位が刻まれています。2024年9月に襲った豪雨では、その脚にある印の一番上に匹敵する高さまで浸水したそうで、地震だけでなく豪雨もまた、猛烈だったことがわかります。地元の人の中には、震災から立ち上がろうとしていたさなかの天災に「心が折られた」と振り返る人もいました。
堅牢さと、優美さが魅力。老舗の「しおやす漆器工房」で輪島塗の奥深さに触れる
輪島といえば、誰もが思い浮かべるのが伝統工芸の「輪島塗」。全国の漆器の産地の中でも、国指定重要無形文化財の団体指定を受けています。訪れた「しおやす漆器工房」は、1858年創業の老舗工房です。
広々とした店内には、手仕事の美しさが宿る輪島塗の器が並びます。輪島塗の最大の特徴は、地元産の珪藻土(けいそうど)を素焼きにして粉にした「地の粉」を漆に混ぜ、何度も塗り重ねることで生まれる堅牢な下地にあります。職人の手による優美な加飾や、「呂色(ろいろ)」という手法で磨き上げられて生まれた鏡のような艶は、思わず見入ってしまうほど。
震災で多くの漆器が割れたり欠けたりしてしまったそうですが、「直して使い続けられる」のも輪島塗の魅力。店内には、金継ぎで修繕し、華やかによみがえった漆器も展示されていました。
しおやす漆器工房
- 住所
- 石川県輪島市小伊勢町日隅20
- 営業時間
- 9:00~17:00
- 定休日
- 年中無休
- 電話番号
- 0768-22-1166
- 詳細
- 輪島塗 しおやす漆器工房
「輪島工房長屋」でオリジナルの漆の箸づくりを体験
朝市通りから徒歩圏内にある「輪島工房長屋」では、漆器の購入や工房見学だけでなく、制作体験もできます。この日は伝統技法の「沈金(ちんきん)」を用いた箸づくりを体験しました(1膳/2,000円)。
「沈金」とは、輪島塗の加飾技法の一つ。ノミで漆器の表面を少し削って模様を彫り、そこに漆を刷り込んで金粉を加えて模様を表現します。漆器の表面が硬いためスムーズには彫れず、気づけば無心になって彫り進めていました。
最後に職人さんが漆を刷り込み、その後で金粉を入れ、拭き取れば完成。漆が接着剤の役割をすることで、金粉が定着するそう。世界に一つだけの箸が完成し、旅の思い出として大切に持ち帰りました。
輪島工房長屋
- 住所
- 石川県輪島市河井町4-66-1
- 開館時間
- 9:00~17:00
- 定休日
- 水曜
- 電話番号
- 0768-23-0011
- 詳細
- 輪島工房長屋
地元の料理人たちが力を合わせて腕をふるう居酒屋「mebuki-芽吹-」
夜は、震災後に立ち上がった新しい居酒屋「mebuki –芽吹–」へ。輪島でミシュラン一つ星を獲得したフレンチの名店「ラトリエ・ドゥ・ノト」の池端隼也シェフを中心に、地元の料理人が集い生まれた店で、「復興の芽が吹くように」という願いが店名に込められています。
地元の新鮮な食材を使った丁寧な料理はどれも滋味深く、この日はお造りのほか、香箱ガニの茶わん蒸しやブリしゃぶなど、能登の冬の恵みを地酒とともに堪能しました。
mebuki-芽吹-
- 住所
- 石川県輪島市マリンタウン6-1
- 営業時間
- 11:30~14:30/18:00~22:00
- 定休日
- 日曜
- 電話番号
- 090-2102-4567
Day2
歴史の灯りを絶やさないように。スーパーの一角で「出張輪島朝市」を開催中
輪島名物の朝市は、震災直後の火災で拠点を失いながらも、歴史を絶やすまいと「出張輪島朝市」として活動を続けています。現在は地元スーパーの「ワイプラザ輪島店」の一角で常設市を開催し、海産物、野菜、惣菜、工芸品など約40店舗が軒を連ねています。また、全国各地のイベントなどにも出向いて、輪島の名品を届けているそうです。
会場には、「見ていって〜」「おいしいよ〜」という元気な輪島のお母さんたちの声が響き渡り、輪島の人々が大切にしてきた“交流の場”がここに息づいていました。
一夜干しや活きのいいカニも! 能登の新鮮な海産物も手頃な価格で購入できます。
現地の人たちにとって輪島朝市は、単に商いの場所ではありません。人と交流できる重要なコミュニティ形成の場でもあります。震災後、人と話す機会が減ってしまった人たちにとっては、人と話すこと、仲間と語り合うことが、売り上げと同じくらい大事なのだと言います。
出張輪島朝市 in ワイプラザ輪島店
- 住所
- 石川県輪島市宅田町41
- 営業時間
- 9:00~14:00
- 定休日
- 水曜日
- 詳細
- 輪島市朝市組合
割烹料理店「夥汲」で、輪島の旬の食材をいただく
旅の2日目の昼食は、輪島の旬の食材にこだわった和食と地酒が楽しめる割烹料理店「夥汲(くわぐみ)」へ。大阪で14年間の営業を経て能登へ移住した店主が、地元・能登の旬の魚介や野菜を活かした和食と豊富な地酒を提供しています。
落ち着いたカウンターや座敷で季節感あふれる会席や日替わりランチが楽しめ、能登の自然や風土を感じられる食体験が評判です。
いただいたのは、しんじょの椀物、お造り、ブリ大根、ふぐのから揚げ、焼き魚が並んだ「日替わりの御膳」。一つひとつ丁寧に仕立てられた料理は、どれも繊細でやさしい味。地元酒との組み合わせも好評で、家族連れの観光客にもおすすめの一軒です。
割烹 夥汲
- 住所
- 石川県輪島市水守町堂端 31-1
- 営業時間
- 11:30~13:30/18:00~21:00
- 定休日
- 火曜
- 電話番号
- 0768-23-4809
- 詳細
- 割烹 夥汲
世界農業遺産の「白米千枚田」。修復しながら250枚の田で米づくり
輪島を代表する景勝地「白米千枚田(しろよねせんまいだ)」へ。日本海を望む急斜面に小さな田んぼが連なる絶景は、世界農業遺産「能登の里山里海」を象徴する風景です。震災前は1,004枚あった棚田は、一部が崩壊。そんな状況下ながらも、地域の人々とボランティアの尽力により、2025年には250枚の田で米づくりが行われました。
白米千枚田に隣接する「道の駅 千枚田ポケットパーク」も金・土・日曜限定で営業を再開しており、店内には千枚田の保全活動団体・愛耕会が育てたお米「絶景米」も並んでいます。
道の駅 千枚田ポケットパーク
- 住所
- 石川県輪島市白米町99-5
- 営業時間
- 金・土・日曜10:00~15:00
名舟町に伝わる郷土芸能「御陣乗太鼓」。大迫力の太鼓と舞を体感!
白米千枚田からほど近い海沿いの名舟町も、震災で大きな被害を受けた地域です。この地に伝わる「御陣乗太鼓」は、戦国時代に村人たちが奇怪な面をつけて太鼓を打ち鳴らし、上杉軍を退けたという伝説に由来する石川県指定無形文化財。海沿いにはその伝説を示す石碑が立ち、背後の鳥居は地震で崩落したまま、激しい揺れの痕跡を示しています。
この旅では、名舟町で400年以上受け継がれてきたその「御陣乗太鼓」の実演も見学しました。鬼気迫るような打音と舞は圧巻!毎年7月31日から8月1日にかけて行われる「名舟大祭」で奉納されるほか、県内外のイベントなどでも公演されるそうなので、鑑賞の機会があればぜひ一度その迫力に触れてみてください。
御陣乗太鼓之地
- 住所
- 石川県輪島市名舟町
- 詳細・公演情報
- 御陣乗太鼓保存会
震災直後に被災地を思いながら、「自分に何ができるのだろう」と思い悩んだ人も多いのではないでしょうか。2年が経過し、輪島の人々は、「来てもらうことこそが復興になる」「来てもらうことでしか輪島を守れない」と語っていました。
景観は震災前とは違っていても、豊かな食文化や長く受け継がれてきた伝統、人の温かさは変わらずそこにあります。そして、今しか見られない光景、今だからこそ感じられる人の力があります。復興へ向かって歩みを進める輪島へ、ぜひ一度、足を運んでみませんか。
取材・文/柿沼曜子 撮影/楽天トラベルガイド編集部
輪島へのアクセス
【電車】「東京」駅から北陸新幹線で「金沢」駅まで約2時間30分/「大阪」駅から特急サンダーバードで「敦賀」駅まで約1時間20分、北陸新幹線で「金沢」駅まで約50分 →「金沢」駅から車または北陸鉄道輪島特急バスで約3時間、「輪島駅前」下車
【飛行機】羽田空港からのと里山空港まで約1時間(1日2往復)→ のと里山空港から車または北陸鉄道輪島特急バスで約30分、「輪島駅前」下車
